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介護保険法の改正後の動向について 第5回 制度改正と新たなサービスのしくみ~介護予防・日常生活支援総合事業~

2 介護予防・日常生活支援総合事業が目指すもの

  1 本事業の特徴

 本事業の特徴は、一つは、二次予防対象の高齢者の状態が改善されて一次予防対象になったとしても、そこで関与が終わるのではなく、一次予防事業の対象者が二次予防にならないような方策を区市町村の判断で実施できるとしたことです。それは自立支援ケアマネジメント(福ナビ特集第4回1-1参照)の中で、利用者のIADL(外出時に身だしなみを整えるなど日常生活を営む上で必要な動作)等の改善を図り、要介護度が軽くなった高齢者の受け皿としての二次予防・一次予防につなげ、高齢者がより元気に生きがいをもち暮らせるしくみを想定したものと思われます。
 実際に、そのように事業を実施している和光市においては、要介護(要支援)認定者が減少していると報告されています。

表3 要介護(要支援)認定率の比較
    平成13年 平成18年 平成20年 平成21年 平成22年 平成23年
全国 11.4% 16.7% 16.5% 16.5% 16.8% 17.4%
埼玉県  8.9% 13.4% 13.1% 13.1% 13.3% 13.8%
和光市  9.0% 12.0% 10.2% 10.1% 10.0% 10.2%
平成24年10月6日第95回市町村職員を対象とするセミナー(厚生労働省)和光市資料から

 それは、IADL等の改善を目指した「自立支援型のケアプラン」によって、在宅生活を自力で継続できるようになった高齢者たちが、要介護認定が非該当になっても連続して支援が受けられる仕組みを作っているためとのことです。非該当から要支援にならないような「方法」を各市町村が工夫して実施することで、要支援から二次予防や一次予防にとどめ、要介護から要支援への改善を意識的に図っているためと思われます。

図1 状態の改善に向けた取り組みイメージ
状態の改善に向けた取り組みイメージ

  2 地域ケア会議を核としたネットワーク構築・活用

 しかし、そのためには介護保険以外のサービスの活用、地域の見守り・支え合いも必要です。何よりも、地域の社会資源を開発・活用し、それを踏まえた自立支援型ケアプランの作成を行う「ケアマネジメント」が必要となります。
 ケアプランの現状は、社会資源や地域のネットワークを積極的に活用したケアプランと言うには、一部を除いて、ほど遠いと思われます。
 そのことが、「介護支援専門員の資質向上と今後のあり方に関する検討会」において示された、実務研修受講試験資格の見直しや、研修体系の見直し、研修指導者向けのガイドラインの設定等の見直し(案)につながっていると思われます。しかし、その見直し効果は未知数である上に時間が必要です。すぐには間に合いません。そのため、前述の検討会では、保険者の役割の強調及び「地域ケア会議」の制度化の方向に一歩踏み込んだのではと思われます。
 地域ケア会議での個別のケース検討を通じて、①個別ケースのIADLやADL(日常生活動作)、心身の状況の改善を意図した予防プランやケアプランを作成すると共に、②地域の社会資源の活用、ネットワークの構築・利用を、その場でプランの中に位置づけようとしています。ケアマネ研修の問題点を地域ケア会議においてOJT(実務を通じての技能知識の習得)としても機能させると共に、地域包括支援センターが担っているネットワーク作りを関係者が一堂に会して、会議を繰り返すことで実体化させるという意思があると思います。「地域ケア会議」は、個別ケースの検討から入りますが、結果として地域の課題を明確にし、対応の方向性を明らかにする機能も有していたことになります。

図2 要介護認定率の比較
要介護認定率の比較

 併せて、地域ケア会議を実施する過程で、図3のように、介護保険外のサービスの整備や地域の住民への働きかけ、ボランティアやNPOの育成等も、介護保険所管課だけでなく、他の所管課や社会福祉協議会、NPO団体等も巻き込んで進める必要があります。
 ネットワーク作りは、地域包括支援センターの業務として位置づけられていますが、すでにネットワークが形成されているのであればそれを活用すればよく、そうでなければ地域ケア会議を契機に、ネットワークの構築ができるのではないかと考えられます。


  3 介護予防・日常生活支援総合事業が目指すもの

 厚生労働省振興課の通知(老振発0930第1号平成23年9月30日厚生労働省老健局振興課長通知)において「市町村の主体性を重視し、・・多様なマンパワーや社会資源の活用等を図りながら、要支援者・二次予防事業対象者に対して、介護予防や配食・見守り等の生活支援サービス等を、市町村の判断で提供することができる」、「制度上の制約から充分なサービスが提供できなかった部分についても、・・・利用者の視点に立った柔軟な対応や、既存の枠組みにとらわれないサービスの提供が可能となる」としている。
 また、この効果として、「地域全体で高齢者の自立した生活を支援するための取組みが推進され、地域活力の向上にもつながると考えられる」と結んでいます。
 これは、保険者が地域の特性に応じた独自のメニューを追加して、利用者支援の充実を図ることを目指したものです。その意味で保険者の力量が問われます。

図3 日常生活圏域を一つの単位とした地域包括ケアと介護予防・日常生活支援総合事業

日常生活圏域を一つの単位とした地域包括ケアと介護予防・日常生活支援総合事業

【地域ケア会議の特性】

地域ケア会議では、行政が介入することで、関係者を集めやすい。
個別プランの検討を行い、原案(成案?)を作成する事で、ケアプランの具体的作成法をケアマネジャーが学ぶという意味でOJT的な効果を生む。
ネットワークの形成、ネットワークへの接続等を地域ケア会議の中で繰り返すことで、結果としてネットワークが形成されやすい。
IADLやADL、心身の状態の改善により、一次・二次予防対象になったときは、介護予防・日常生活支援総合事業サービス等への参加を促すことで、最大限状態の維持・改善を図れる。
医療が必要な者や重度者については、医療看護との連携が図りやすい。また、退院・退所事例については、その受け皿を地域のネットワークの中で検討できる。
介護予防・日常生活支援総合事業のサービスは地域包括ケアシステムとリンクしている

【課題】

普遍性の限界、大都市での実施の限界(小地域化しても地域ケア会議の人手確保が困難)。
地域ケア会議だけが、正しい選択とは言い切れない、地域の特性などの地域差等があり得る。
区市町村・地域包括支援センターの職員の力量に差がある。