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介護に関するロボットやICTの活用について

3. 私たちは何に取り組むべきか?

 さて、先のセクションでは5G・IoT・AI・ARなどのテクノロジーの進化が私たちの日常や職場をどのように変えていくのかについて説明しました。職場の環境の変化に伴い、仕事の「やり方」が大きく変わっていくことは間違いないでしょう。時代の流れで誰もが新しいテクノロジーを活用していくことになるはずですが、次に新たな時代に向けて「私たちは何に取り組むべきか?」についてお伝えします。

3.1 人間と機械の“協働”

 私が読んだ『HUMAN+MACHINE 人間+マシン: AI時代の8つの融合スキル』という本の筆者は、1,500社を対象にAIの活用に関する調査を実施したそうです。その調査によると、企業が最大のパフォーマンス改善を実現するのは、人間と機械が“協働”した時であるとのこと。協働すれば、人間とAIは互いの補完的な強みを積極的に伸ばすことができるのです。ちなみに、「強み」とは、人間のリーダーシップ、チームワーク、創造性、社交性です。一方、AIの強みは、スピード、拡張性、量的対応力となります。

 では、AIをフル活用するには、どうすれば良いのでしょうか? 先述の本によると、どうすれば人間が機械の能力を最も強化できるか、どうすれば機械が人間の得意なことを最大限に改善できるか、そして、両者のパートナーシップを支えるためにビジネスプロセスをどう設計し直せば良いかを、企業が理解しなければならないとのこと。実は、私が読んだ書籍や参加した各種セミナーから得た情報には、どのテクノロジーの活用においても上述と似た内容が指摘されていました。AI に限らず、RPA(Robotic Process Automation)やチャットボットなどの活用においても同じで、「いきなりテクノロジーを導入するのではなく、業務プロセスの見直しを行った上で導入しなければならない」ということでした。

 ちなみに、RPAは、ホワイトカラーのデスクワークを、パソコンの中にあるソフトウェア型のロボットが代行・自動化する概念です。大手の銀行や保険会社などを中心にここ数年で急減に導入が進んでいます。また、チャットボットは「対話(chat)」と「ロボット(bot)」を組み合わせた言葉で、ユーザーと企業をつなぐコミュニケーションの道具として注目を浴びています。対話を行うロボットですが、パルロのような介護ロボットとは異なります。人間が入力するテキストや話した音声に対して、自動的に回答を行うことができるのです。これまで人間が電話やメールなどで対応していたお問い合わせや注文などの対応を代行してくれるのです。

3.2 業務プロセスの改善

 新しいテクノロジーを活用していく時代に「私たちは何に取り組むべきか?」という問いに対する答えは、「いきなりテクノロジーを導入するのではなく、業務プロセスの見直しを行った上で導入しなければならない」ことです。「10万円なら安いから」「ヨソの施設が導入したから」とロボットやICTに飛びつくのではなく、先にも書いた通り、「(施設・自分は)どうなりたいのか?」「どうしたいのか?」をはっきりさせ、どこへ向かおうとしているのかをしっかりと定義した上でオペレーションを再設計しなければならないのです。しかし「オペレーションの再設計」と書くと、非常に難しく感じる人がいるはずです。その原因は、何を・どこから・どのように、始めれば良いのかがわからないからでしょう。

 やるべきことは、「まずは改善可能な業務領域を発見しなければならない」ということですが、「では、それってどうやるの?」と悩まれる人が多いかと思うので、少し詳しく説明していきます。

3.3 見える化

 では最初に取り組むべきことは何でしょうか? その答えは「見える化」となります。なぜなら業務改善の基本は「パロ」だからです。介護ロボットのパロ(RARO)ではなく、減らす(Reduce)・廃止する(Abolish)・再利用する(Reuse)・外注する(Outsource)の頭文字を取るとPARO(パロ)になるということ。「パロ」を行うためにも、まずは「見える化」に取り組むことです。

 「見える化」によってこれまで見えなかったものが見えるようになります。これまで意識していなかったことの区別や識別ができるようになります。「見える化」によって目の前に転がっているチャンスが今よりたくさん見えるようになります。同様に、物事の良し・悪しの判断が容易になり、以前よりも改善を行うことが簡単になります。目の前にあるのに自分には見えていなかったチャンス・選択肢・決断・可能性などが見えるようになります。「見える化」はいい事ばかりをもたらすのです。

 では、介護現場では何を「見える化」させる必要があるのでしょうか? それは業務の「見える化」。もっとわかりやすく表現すると「仕事のやり方」です。そこで「仕事のやり方」を「見える化」させるにあたり、今の業務をプロセスで考えてみる必要があるのです。

3.4 プロセス思考

 「業務をプロセスで考えてみよう!」といきなり言われても、戸惑ってしまう人が多いと思います。そこでまずプロセスで考えることについて私たちの日常生活の例を使って説明してみます。人間であれば誰もが行う日常生活の例でプロセスについて理解を深めましょう。

 多くの人が無意識かもしれませんが、私たちが朝起きてから出勤するまでの活動はプロセスで構成されています。人によって順番が前後するかもしれませんが、例えば、朝に目覚めてから家を出るまでの活動は、「1起床→2洗顔・整髪→3朝食→4トイレ→5歯磨き→6着替え→7出発」と大きく7つのプロセスに分けることができます。

 もしかしたら起きてから何も口にしないまま家を出るので、朝食というプロセスがない人がいるかもしれません。あるいは、トイレを出発までに2回以上利用する人がいるかもしれません。もしかしたら「犬の散歩で外出する」「瞑想する」「子供を起こす」などというプロセスがある人もいるはずですが、お伝えしたいのは下図に示した通り、朝起きてから出勤するまでの一連の活動をプロセスとして捉えることができるということです。


朝起きてから出勤するまで

 また、「1起床→2洗顔・整髪→3朝食→4トイレ→5歯磨き→6着替え→7出発」の7つのプロセスに分けてみましたが、そのうちの一つをさらに細かなプロセスに分けることができます。その細かくしたプロセスは「サブプロセス(中プロセス)」などと呼ばれます。

 最初の「起床」を例に検討してみましょう。「起床」という大きなプロセス(大プロセス)を「目覚め→アラームを止める(時間の確認)→起き上がり→移動」といったサブプロセス(中プロセス)に分割することができます。

プロセスを細分化する

 私は社会人として最初に配属されたのが品質保証部という部署だったので、「QC7つ道具」など基本的な品質改善の手法を学んでいましたが、その後に転職した外資系企業で一連の活動をプロセスとして捉えた上で業務プロセス改善を行うスキルを習得してからは、あらゆる業務において改善が容易になりました。そのスキルの一部をここで紹介したのです。

3.5 改善できそうなところ探し

 さて次に、朝起きてから出勤するまでの時間を「どうしたら短縮することができるのか?」という視点でプロセスを改めて検討してみましょう。ただし、無理に起床の時間を早める、あるいは、出発の時間を遅らせるのではなく、あくまで起床から出発までの所要時間の短縮を検討します。

 いくつかの方法がありますが、限られた時間を有効に使うポイントの1つは、複数の活動を同時に片付けられないかを検討してみることです。別の言い方をすれば、2つ以上のプロセス(活動)を同時に併行させるのです。例えば、「A」「B」「C」と3つのプロセスがあり、それぞれの所要時間が10分であると仮定します。この場合、所要時間10分の「A」を終えてから「B」をやり、「B」をやり終えてから「C」に取り掛かると、合計の所要時間は30分となります。3つのプロセスをシークエンス(順番)に行うと30分掛かることになります。ところが、「A」の後に「B」と「C」を同時に行えば、所要時間が10分短縮されて20分となります。

 先に「1起床→2洗顔・整髪→3朝食…」というプロセスを紹介しましたが、この一連のプロセスの所要時間の短縮を考えてみましょう。そこで複数の活動を同時に片付けられないかを検討してみるのです。まず「朝食」というプロセスに注目してみましょう。「朝食」は、「準備」→「調理」→「食事」→「片付け」というサブプロセス(中プロセス)に分割することができます。またサブプロセス(中プロセス)の1つである「調理」に注目したところ、「カット」→「煮る」という小プロセスに分割できました。しかも「煮る」というプロセスには4分掛かっていました。一旦火を付けてしまえば「待っているだけ」の4分間であることがわかりました。

朝食を細分化する

 「待っているだけ」の活動は何も価値を生みません。そこで「煮る」という4分間を有効に活用できないでしょうか? そこで目を付けたのが「洗顔・整髪」のプロセスです。火を付けて待っている4分間に「洗顔・整髪」のプロセスの一部を済ませられないかと検討するのです。そうやって「煮る」と「洗顔・整髪」のプロセスの一部を同時に進めてしまえば、全体の所要時間を4分も減らすことが可能になります。

 先に「限られた時間を有効にするポイントの1つは、複数のプロセスを同時に片づけてしまうということ」と書きましたが、活動をプロセス化させる別のメリットには「価値を生まないプロセスを見つけ出すことができる」ことです。先の例では、起床から出勤までの時間の有効活用に関し、「調理」のプロセスの中に火を付けた後に「ぼ~っと待つ」という価値を生まない時間を見付け出しました。その「ぼ~っと待つ時間」に「洗顔・整髪」のプロセス(の一部)を済ませるようにプロセスを見直したのです。

 実は他にも検討すべき項目があるのです。例えば、「移動」の距離や回数を減らすことができないでしょうか? もし同じ場所の移動を繰り返していたらそれを1回にまとめられないでしょうか? そうすれば移動時間が削減できます。同様に、「探す・迷う」という時間はないでしょうか? 同じことを繰り返すという「二度手間」はないでしょうか? 「手持ち無沙汰・待ち」の時間はないでしょうか?

 このように「待ち時間」「移動時間」「探す・迷う時間」「二度手間の時間」などの「価値を生まない活動」を見つけ出し、それに手を加える結果、朝起きてから出勤するまでの所要時間を4分どころかそれ以上に減らすことができるのです。このように私たちが朝起きてから出勤するまでの活動については、大区分→中区分→小区分などと何段階かのプロセスに分割することで「見える化」が可能なのです。一連の活動をいくつかに分割してプロセスとして捉えることでそれが可能になるのです。

 ところで一体、「プロセス」とは何でしょうか? プロセスとは、投入(input)された何かを算出(output)の形に転換するために行われる一連のステップや活動などを意味します。つまり「インプット(input)→プロセス→アウトプット(output)」という流れになるのですが、インプットに対してプロセスという過程を通じてそこに価値が付加(転換)されるのです。その結果としてアウトプットとなるのです。

 ちなみに、本稿に紹介した内容は業務プロセス改善のノウハウの一例にすぎません。例えば、介護施設を見た場合、食事介助、排泄支援、見守り支援、レセプト請求などさまざまな業務がありますが、あらゆる業務の改善を一斉に始めたら現場が混乱するだけです。そこで段取りが重要なのです。先にも書いた通り、「どうありたいのか?」を明確にした上、全体を見ながら、どこから、どのように業務プロセスの改善を進めていけば業務の最適化がスムーズに図られ、「ありたい姿」に到達できるのかということについては、よく検討しなければなりせん。少し難しい話になってしまうので、本稿ではこの点について立ち入りません。

 とにかく、まずは「見える化」することがポイントなのです。そうすれば、「止めるべき活動(プロセス)はないか?」「職員が迷いがちな活動は何かないか?」「自分たちでやるよりも外注した(業者に任せた)方が良い作業はないか?」などと改善可能な業務領域を発見することができるのです。

 そして、改善可能な業務領域を発見したら、次に「それをどうやって改善するのか?」を決めていけば良いのです。ロボットやICTの活用は、まさに改善策の一つにすぎないのです。改善策の一つにすぎないので、他の選択肢もあるのです。例えば、業務そのものを止めてしまうという判断があるかもしれません。あるいは、ある業務をすべて外注してしまうこともできるのです。レセプト請求、経理業務、給与計算、採用などの仕事を外注する方法も選択肢にあるのです。何もかも自分たちで行う必要はないのです。不得手なことや外注した方がコスト安で済むことは外注するという方法もあるのです。そして「どうやって改善するのか?」と検討する際の解決策の一つにロボットやICTの導入・活用があるのです。

 文字制限もあり本稿ですべてを説明することはできませんが、要は「継続的に業務改善を行う仕組み」を組織の中に定着させることがポイントです。少し難しく表現すると「オペレーション構築の仕組み」を定着化させることです。また、業務改善は1回やったら「オシマイ」ではなく、継続的に行うことです。このように継続的に改善を行う仕組みを推進し、組織の中に定着させることです。ロボットやICTの導入・活用は、この仕組みづくりの一貫として行うと良いのです。「ロボットを導入する」ことは単発の活動ではありません。単なる買い物でもありません。一人二人の担当者だけが関わることでもないのです。

 重要なので繰り返しますが、いきなりロボットを導入し、「さあ、ウチはどうしようか?」ではないのです。本稿で説明した通り、将来の環境の変化を踏まえ、「継続的に業務改善を行う仕組み」を作りあげていく過程の中にロボットやICTの導入・活用があるのです。
 ちなみに、私が指導を行う際は、組織の中にチームを編成してもらい、そのチームメンバーから組織全体に波及させるよう仕掛けています。

3.6 最も重要なこと

 さて、AIなどの新しいテクノロジーを上手に活用していくためには、「人間と機械の協働」が必要であり、「あるべき理想の姿」を明確にした上で、どの業務から、どのようにロボットやICTを活用していくべきかを検討しなければならないと述べました。また、それを実現するためには「継続的に業務改善を行う仕組み」が必要であると説明しました。その際に最も重要なことを最後にお知らせします。それは、当たり前かもしれませんが、私たちの「心の状態」です。人間と機械の協働も業務改善にしても、実施するのは私たち人間です。だから、働く職員の「心の状態」が腐っていたら、せっかくのテクノロジーを上手に活かすことができなくなってしまいます。例えば、「私はちゃんとやっているのに、◯◯さんが悪い!」などと他人の悪口ばかりを言い合っているような職場にいたら、職員はいきいきと仕事をすることができません。同様に、「私はこんなにたくさんの仕事をしたのに、●●さんはまるで使えない!」などと、(本人がいないところで)仲間の悪口を言うことが日常化すると、周囲の人がそれに感化され、マイナスの影響を与えてチームの雰囲気が険悪になりがちです。私はそういう職場でも仕事をしたことがありますが、そのような心の状態だと職員は惰性で仕事をするようになります。これでは折角のオペレーションが上手く機能しないのです。ワンチームになって共通の目標に向かって進んでいくのではなく、「どうしたら自分が文句を言われずに済むだろうか?」「自分の責任ではなく、◯◯さんが悪いことにするには、どうすれば良いか?」などと余計なことに知恵を働かせる組織になってしまいます。同じように、上司が部下に対して怒鳴りつけたところで、部下のモチベーションがアップするわけではないのです。

 職場では、働く人たちの心の状態が全てのベースになっています。「生産性をもっと高めよう」「もっとスピーディーにやろう」「もっとチームワークを高めよう」などのアクションを起こす時には、心の状態やチームの雰囲気がベースとなっており、その上にオペレーションの仕組みが乗っかっているのです。職場をより良くするために、会議を開催するかもしれません。マニュアルを作成するかもしれません。あるいは、ロボットやICTを活用するかもしれません。このようにさまざまなことにチャレンジしても、結局のところご自身やメンバーの心の状態やチームの雰囲気が良くなければ上手くいかないのです。「どんな作業をやるか」「どのようなロボットを使うか」ということは重要ですが、それよりも「一人一人がどのような気持ちで働くか」が大事なのです。一つ一つの作業に対してどのような気持ちで行うかが全てだからです。だから、他人に文句を言う前に、他人に責任を押し付けようとする前に、まずは自分の心の状態を良くすることが必要ではないでしょうか? それは全て自分でできることです。その上で、その良い状態を相手にも伝播するようなチームづくりが必要なのです。

 最後になりますが、本稿は「介護に関するロボットやICTの活用について」と題して2回にわたり記事をお届けしました。1回目は主に「過去から現在まで」の状況について説明し、2回目の今回は「現在から未来に目を向けた話」として展開しました。新しいテクノロジーの登場で私たちの職場環境はこれからも大きく変わっていきます。そこでは、変化する力・変化に柔軟に対応できることが生き残っていくためには必要なのです。