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  4. 最先端のテクノロジーが介護にどのような影響を及ぼすか

介護に関するロボットやICTの活用について

2. 最先端のテクノロジーが介護にどのような影響を及ぼすか

 次に、視点を現在から未来に移していきましょう。最先端のテクノロジーが今後、介護の現場にどのような影響を及ぼすかについて探っていきます。これから10年くらいの間に直面する変化は、過去10年よりも遥かに大きなものになるはずです。皆さんも何度か耳にされたことがあるかと思いますが、5G・IoT・AI・ARなどのテクノロジーの進化が私たちの日常や職場をどのように変えていくのか見ていきましょう。

2.1 2020年に5Gスタート

 5Gと呼ばれる第5世代移動通信システムの商用サービスが2020年の春にスタートします。5Gの「G」は「Generation(世代)」の略です。5Gがスタートすると私たちが使っているスマートフォンの画面上部の表示が現在の4Gから5Gに変わるので、すぐに気づくはずです。4Gよりもさらに高速な通信が実現するのです。5Gの商用サービス開始後は、インターネットでつながるIoT家電などの販売が加速化するはずです。

 また5Gになると動画配信サービスが進化します。「映画が数秒でダウンロードできるようになる」と言われています。少し前までは動画をパソコンにダウンロードする際に時間が掛かって何かと面倒でしたが、ここ10~15年に間に大きく変わりました。5G時代はスポーツの試合などを利用者が自分の見たい角度から見られるというマルチアングルの視聴が一般的になります。

 5Gは生活シーンだけではなく、介護の現場での活用も期待されています。これまでIoTを導入しにくかった業務にも活用されるようになるでしょう。

2.2 5GによるIoTの普及

 5GのサービススタートによりIoTの普及が進みます。IoTとはInternet of Thingsの略です。「モノのインターネット」という意味で使われています。モノがインターネットと接続されるようになるのです。例えば、離れた場所にある機器からデータを収集することができるだけではなく、それらを分析・処理し、稼働実績の把握や異常監視を行うことができるようになります。遠隔地から機器の保守作業を行うことも可能になります。 また今では、トイレに入って用を足すと、 手洗い用の鏡に尿酸値などのバイタルデータを示してくれるサービスも市販化されています。これらの機能をもっとわかりやすく表現すると、私たちが購入した機器の使用履歴が「丸見え」になってしまうということ。故障を事前に察知してくれるなどの利点がある一方、プライバシーの問題が発生するのです。

 介護の現場の場合だと、例えば、介護用ベッドにセンサーを取り付けてデータを取得すれば利用者の起床時間を予測することが可能になります。事前に起床時間がわかれば、アラームで通知された職員が適切なタイミングに利用者の居室へ出向き、起床を手伝うことができます。これは転倒予防に大いに役立つはずです。

 このようにIoTの普及は私たちの生活や仕事にさまざまなインパクトを与えることになりますが、ここでは重要な2点を紹介します。

 1つはモノの売り方が変わることです。これまでは売ったら「買った人が、本当に使っているのか?」という情報は、売り手にはわかりませんでした。例えば、「車椅子を本当に使っているのか?」という事実はわかりませんでした。購入者本人や関係者からの申告をそのまま信じるより他ありませんでした。それがIoTによって「いつ・どこで・どのくらい使ったのか?」というデータの収集が可能になります。これにより、電話料金のように使った分だけ課金する従量課金制が普及する可能性があります。今はまだ聞いたことがありませんが、介護ロボットに従量課金制が導入されると、購入時のハードルがかなり下がります。50万円もするロボットが、初期費用を原価回収コストの10万円として、あとは従量制になるかもしれません。かなり購入しやすくなります。

 また、IoTのもう1つのインパクトは遠隔からの知識の提供です。例えば、ロボットを使っていて壊れそうな時、そのことを事前に知らせてくれると助かります。IoTによって機器の使用状態をインターネットで把握できるからです。新しい機械を購入すると、操作方法を覚えなければならず、故障した際には状況を確認した上、業者に連絡して来てもらう手間がありました。IoTではこちらから連絡しなくても「故障した」「故障しそうだ」という情報を業者が先回りして把握してくれるのです。使用する側が業者へ連絡する手間が無くなるのです。

2.3 AIアシスタントに選んでもらう

 前回の記事に書いた通りですが、私が就職した1990年代の初めは、IT化が進んでいた大企業の職場でも1人に1台のパソコンが与えられていませんでした。インターネットもありませんでした。また、日本では1990年代後半からインターネットが職場や家庭に普及しました。それまでは百科事典や電話帳などを使って物事を調べる方法が一般的でした。それがパソコンを使って、検索エンジンと呼ばれるヤフーやグーグルの検索窓に単語を入力するだけで検索したい情報を探し出せる時代になりました。最近では同じことが音声認識でも可能なのです。スマホに話しかければ情報を探し出させるのです。私は毎日、「オッケー、グーグル。今日の天気は?」「オッケー、グーグル。渋谷から浅草橋までの所要時間は?」などと自分のスマホに話しかけて情報を検索しています。使ってみると意外と便利です。その理由は文字入力の手間が省けるからです。

 日本では内蔵マイクで音声を認識し情報の検索や連携家電の操作を行うAIスピーカーが2017年に本格的に売り出されました。音声認識の技術向上は介護の現場にも大きな変化をもたらします。例えば、何かと時間が掛かる介護記録です。これまでは紙に記入する、あるいは、パソコンの画面を開いてキーボードを使って文字入力をしていたはずです。しかし、話しかけるだけで済むようになったのです。これなら介護記録の入力に費やしていた時間が大幅に削減されます。

 前回の記事では、手書きからパソコンへの入力に変更したことで生産性が大きく向上したと述べましたが、今度は文字入力の手間すら不要なのです。話しかければ良いので、キーボード入力が不得手なためにパソコンの使用を拒んで手書きを続けていた人にも受け入れやすくなりました。このような製品は近いうちにかなり普及すると思われます。

 他にも、AI搭載の製品が普及することにより、今後10年くらいの間に様変わりすると思われることが多くあります。例えば買い物するシーンを考えてみましょう。インターネットが登場する前は、売っていそうな店を人づてに聞き出す、あるいは、電話帳を使って探し出していました。そして店まで出向き、店内に陳列された品の中から「これが良いかな!」などと購入品を選んでいました。それがインターネットの登場で買い物のスタイルが一変しました。パソコンやスマホで多方面から探し出し、遠方から取り寄せることもできるようになったのです。

 このようにインターネットの普及によって、私たちの生活は非常に便利になった一方で、日常では手に負えないほどの数に増えている選択の場面に直面することになりました。「何を買うべきか?」「AとBとC、どれを選ぶべきか?」「どうやって行くべきか?」などと私たちは常に選択の場面に直面しています。物品の購入については、わざわざ他を探すのも面倒だという理由から同じ商品を使い続けている人が少なくありません。私もその一人です。そういう点について、今後はAIアシスタントがサポートしてくれるようになります。要は、迷うことなく「AIにサクッと選んでもらう」という楽な時代になるのです。AIは、私たちのコスト(買い物の時間など)やリスク(間違ったモノを買うこと)を最小化するだけではなく、これまでにない利便性を提供してくれるはずです。

 介護の現場でも、おむつや食材などの購入時に「何を・いつ・どのタイミングに・どのくらい」発注するべきかについて迷いが生じることがあるはずです。 今後は、こういう悩みが最小化するはずです。なぜなら、AIが一人一人の利用者・職員に対してサクッと最適な物や方法を選んでくれるからです。だからAIの力を借りれば「利用者の満足度」にも変化が見られるようになるはずです。今よりも向上するのです。それはAIによって、その瞬間に、その人にとって最も好ましい特徴・価格・性能の組み合わせなどを予測できるようになるからです。AIは利用者のニーズを当の本人よりも的確に満たせるようになるかもしれないのです。将来はAIを上手に活用することによって何事においてもより効率的な選別やマッチングを促してもらえる時代を迎えることになるでしょう。

 同様に、ロボットやICTの購入においても、現在は「なんとなくこれが良さそうでは?」と選んでいたかもしれません。それがAIの力を借りれば一変し、施設や利用者・職員にとって最も好ましい提案をしてくれるようになることでしょう。

2.4 ARが職場を変える

 AIだけではなく注目のテクノロジーがあります。Augmented Realityの略で「拡張現実」と訳されているARです。これはデジタルのデータやイメージを物理世界に重ね合わせる技術群です。
ちなみに、ARの同類として知られているVR(Virtual Reality)は「仮想現実」と呼ばれます。これはARと補完的な関係にある別個の技術です。ARがデジタル情報を物理世界に重ね合わせるのに対して、VRは物理的現実の代わりにコンピューターが生成した環境を用います。例えば、ヘッドセットを装着することで、鳥のように空を飛べたり、海中を潜ったりすることが体験できます。東京ビッグサイトなどの展示会場ではよく目にするようになりました。あれがまさにVRです。東京ジョイポリスやVR PARK TOKYOなど、都内でもVRが楽しめる場所がいくつかあります。私は2019年12月のある日、ダイバーシティ東京内のある施設でVRのヘッドセットを使って世界一周旅行を楽しんできました。

VRで世界一周旅行

 さて、ARの話に戻りますが、私たちの現実世界が3次元であるのに対して、判断や行動の参考にする膨大なデータは2次元のページや画面にくくりつけられているため、現実世界とデジタル世界には隔たりがあります。ARは、この隔たりを縮めて、いまだ開拓されていない人間ならではの能力を、確実に引き出してくれるのです。ARの本質は、大量のデータや分析内容を画像や動画に変換して、現実世界に重ね合わせる点です。ARを使えば、現実世界のモノや環境の上に、デジタル情報をじかに表示できるのです。そのため、私たちは物理世界とデジタル世界を頭の中で橋渡しすることなく両方を同時に処理できるようになります。

 身近な例として車の運転を考えてみましょう。車を運転する際にカーナビを使う人が多いと思いますが、使う時には画面上の情報を確認し、それを頭の中で眼前の道路上に移し変えていることになります。これは意外と努力を要することです。頭の中で翻訳作業を行っているような感じです。当然ながら間違うこともあります。現に私は、カーナビを使っているにも関わらず、左折あるいは右折する場所を間違えたことが何度もあります。でも、ARがデジタル情報をそのまま物理世界に重ね合わせて表示してくれれば、それがかなり減るはずです。

 また、ARはすでに指示、研修、コーチングの既成概念を打ち破っています。ARを活用すれば、指導する側とされる側が顔を合わせなくても済むからです。対面することなく、製品の組み立て、機械の操作、倉庫での商品取り出しなどの業務について、現場でリアルタイムに手順を追いながら、目に見える形で指示を受けることが可能になります。現に、東京国際フォーラムや幕張メッセなどで開催される展示会へ行くとARを活用した製品がいくつも並んでいます。製造業が先行することになるでしょうが、遅かれ早かれ介護の現場でも使われるようになるはずです。

 例えば、以前であれば業務マニュアルを作成しても上手に活用することが難しかったかもしれません。なぜなら、マニュアルが保存してある書類を手にした上、その内容を理解して頭に入れ込む必要があったからです。マニュアルの内容が頭に入っていないと、現場では「えっと?」と迷いがちでした。そこで、もしかしたら改善策としてマニュアルの保管場所に工夫を加えたかもしれません。事務所に保管するだけではなく、作業を行う場所に手に取りやすい形で保管したかもしれません。また、スマホの普及に伴い、職員にそれを持たせ、スマホを使って直ぐにマニュアルの情報を迅速に引っ張り出せるようにしたかもしれせん。それらの工夫については、どれも情報へのアクセスという面では利便性が向上したかもしれませんが、先に説明したカーナビと同じ課題に直面したはずです。それは、マニュアルに記載された情報を頭の中で翻訳作業を行うことです。

 ARはこれらを一変させるのです。現場で眼鏡タイプなどのARデバイスを使う人の目に映る中身に、取るべき対応をすぐに案内してもらうことが可能だからです。先に書いた通り、デジタルのデータやイメージを物理世界に重ね合わせるのです。これにより私たちが指示・マニュアルなどにしたがって作業を行う際の迷いは最小化します。ARはデジタル世界と物理世界の溝を埋めるための強力なヒューマンインターフェイスの役割を果たす歴史的なイノベーションになると期待されています。