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介護に関するロボットやICTの活用について

5.ロボットやICTの導入・活用事例は?

 国や自治体では介護・福祉分野にロボットやICTを普及させるために、試行錯誤しながらもさまざまな施策や支援を行ってきました。ここでは、ロボットやICTの導入・活用の事例について、上手くいかない例および上手くいく例についてそれぞれ共通するポイントをいくつかお伝えします。

5.1 上手くいかない事例

 ロボットやICTを導入しても上手くいかない例として最も多いと思われるのが、「担当者を決めたが、後は何も決めていない」というケースです。現場への落とし込みが不十分なのです。そのため、担当者は表向きとは裏腹に「仕事が増えた!」「面倒だ!」「なぜ私が?」と感じることになります。これでは、部下に何か新しい仕事を指示する際に、それまでの経緯や後の工程などを何も説明することなく、「これ、やっておいて!」と作業内容を断片的に指示するケースと同じで、上手くいかないのです。

 同様に、よく見られるのがメーカーや販売代理店が組織のトップ(理事長、代表取締役など)に営業して導入が決まるケースです。トップ自身が「これは素晴らしい!」と感じて導入するわけではなく、お付き合いの関係や政治的な圧力があり「NO!」と断われないまま導入が決まるケースです。「鶴の一声」で導入が決まり、トップが現場に対して「使うように!」と指示を出すだけの場合は、上手くいかないのです。導入に際しては周到な準備が必要であり、またトップから現場までをあらかじめ巻き込んでおかなければならないからです。

 また、先に紹介した平成27年度厚生労働省補正予算の「介護ロボット等導入支援特別事業」以降に増えてきたのが「補助がある!」との情報を得て、国や自治体の補助事業に飛びつき導入したものの、後に使わなくなってしまうケースです。補助事業の公募開始日から締切日までの期間が短いと、じっくり検討する余裕もないまま意思決定しなければなりません。「お得だから!」「補助金で購入できるのなら!」「◯◯施設が導入したから!」などと判断し購入したはずなのに、使わなくなってしまうのです。

5.2 上手くいく事例

 では逆に、上手くやっている事例はないのでしょうか? もちろん、あります。いくつか上手くいく事例を紹介します。
1つ目は、現場に対して上手に課題を与えて自主性を重んじながらロボット導入の提案をさせた事例です。「上手くいかない事例」によくありがちな上層部からの「やれ!」という指示で現場を動かそうとしたのではなく、トップダウンながらも上手に現場から提案させた点が素晴らしいのです。
 ある施設では施設長が現場の介護課長に「ウチの現場はどのような問題に直面しており、それを解決するために、何から先に取り組むべきか?」という課題を与えました。そして介護課長は、課題の整理を通じて、施設としてどの課題から取り組むべきかを自ら意識して認識するようになったのです。同時に、施設長の指示で、介護ロボットセミナーや展示会に参加して学んだことをレポートにまとめて報告しなければなりませんでした。そのうちに、介護課長の方から「ウチの施設にはこういうロボットの導入が必要です!なぜなら◯◯◯という理由からです」と提案するに至ったのです。
 また、「委員会運営で自主的に課題を解決させる」というボトムアップでロボットの導入を決定した例があります。その事例では、委員会で議論して決まった内容をトップに提案して採択してもらうという意思決定プロセスを採っていました。
これらの事例には優れた点がいくつもあるのですが、その1つとして注目したいのが「自主性の尊重」です。いずれも現場職員が自主的に考え、その結果として提案した解決方法がロボット導入だったのです。上からの指示で嫌々やるのではなく、自分達が提案した内容が具現化すれば、業務に対してやる気が出ます。だから、現場職員達のやる気がはじめから違っていたのです。
 2つ目は、「皆を巻き込む」ことです。法人や施設内の1人や2人だけが担当するのではなく、少しでも多くの人を巻き込んだ方が良いのです。職員だけではなく、利用者さんや彼らの家族まで上手く巻き込むことです。これについては、例えばロボットやICT の名前を公募する方法があります。この方法なら「導入するので使いなさい!」「使わないと、勿体ないから!」と上から目線ではなく、「遊び心」を持ってソフトに職員を巻き込むことができます。また、施設内にチームをつくり、定期的にミーティングを行なう方法があります。そしてチームの中で話し合ったことや決まったことを施設内の職員と共有できるように情報発信することです。できればそれを利用者さんとも共有すると良いのです。そうやって多くの人を巻き込んでいくのです。全ては工夫次第なのです。