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介護に関するロボットやICTの活用について


 本稿の1回目では、主に「過去から現在まで」の状況について説明しました。以前は、何でも手書きだったのがパソコンやスマートフォン(スマホ)を使用するように変わってきたこと、国を挙げて生産性の向上を目指していることなどについて説明しました。また、ロボットやICTを上手に活用するためのポイントを説明しました。

 テクノロジーが私たちの生活や仕事を大きく変えました。暮らしはより便利になり、職場では生産性が大きく向上しました。テクノロジーの進歩は続き、これから世の中が一変するはずです。そして時代の変化と共に新しい職業が誕生する一方、廃れていく仕事があるでしょう。

 さて、今回は視点を「現在から未来」に向けて話を展開します。新しいテクノロジーの登場によって私たちの日常生活が変わっていったのと同じように、介護の現場も大きく変わっていきます。今後、私たちの職場の環境が新しいテクノロジーの登場でどのように変化していくのかを探っていきます。それも敬遠したくなるような技術的な話ではなく、現場がどのように変化していくのかという点についてワクワクする未来の姿を述べていきます。その後、「私たちは何に取り組むべきか?」という内容を解説します。

 なお、「種が生き残るために最も大事なのは変化できることだ」と、イギリスの自然科学者のチャールズ・ダーウィンが説いたダーウィンの進化論は有名ですが、環境の変化にあわせて私たちも変化していくことが生き残るためには必要なのです。そこで、まずは「福祉用具から介護ロボットの活用で変わらなければならないこと」というタイトルで現在の話からスタートします。

1.福祉用具から介護ロボットの活用で変わらなければならないこと

 私、関口は2010年からロボットを介護現場へ普及させる仕事に携わってきました。行政・メーカー・施設の間に入り、橋渡し役として多数の導入に関わりました。2010年当時は「介護ロボット」という言葉がまだ介護施設でもあまり使われていませんでした。そのため、神奈川県事業で介護ロボットに関するヒアリングを行うために介護施設を訪問した際は、毎回のように「介護ロボットにはこのような機器が該当します」とロボットの写真をカテゴリー別にいくつも貼り付けたA3用紙を施設の職員の前に見せた上、定義のすり合わせを行っていました。介護ロボットの定義を確認した上でヒアリングを行っていたのです。センサーやアーキテクチャなどと口にすると小難しい話になってしまうので、視覚的にイメージしてもらえるよう努めたのです。

 また、2013年くらいまでは、介護職員が集まる講演会場において「介護ロボットについて、どんな機種があるか知っていますか?」と質問すると「何も知らない」と回答する人が大半を占めていました。「知っている!」と言う少数派の人たちに対して「では、どのような機種を知っていますか?」と聞き返すと、大抵の人は「HAL」「パロ」と皆が同じ機種を口にするだけでした。しかし今ではすっかり「介護ロボット」という言葉が定着しました。介護現場においても半数以上の職員が2~3機種ならすぐに口に出るようになったのではないでしょうか?

 ようやく介護の現場にもロボットが普及しつつあるのですが、このセクションでは福祉用具から介護ロボットの活用で変わらなければならないことについて簡単に説明します。

1.1 よりハイテクに

 1つは、当たり前の話になりますが、よりハイテクになったという認識と理解です。手すりや杖など福祉用具の多くはローテク製品です。「ローテク」とは「ローテクノロジー」の略になります。ロー(low)は「低い」、テクノロジー(technology)は「技術」という意味です。だから単純で初歩的な技術が使われている製品は「ローテク」と呼ばれるのです。ローテクの対義語がハイテクになります。

 一般的にロボットは福祉用具よりもハイテクですが、そのために高い・複雑・手間という特徴を持っています。福祉用具よりも価格が高く、機能が複雑で、使いやすさの面で手間が掛かるのです。

1.2 生産性への意識

 2つ目は、せっかく高い買い物をするからこそ必要なこと。その一つが「生産性への意識」です。(福祉用具よりも)高い料金を払って購入・レンタルし、手間をかけて操作方法などを習得する以上、それに見合った「見返り」を求めるべきなのです。それが「生産性が向上したのかどうか?」。つまり「生産性への意識」です。「何も道具を使わずに、人手だけで行う時よりも生産性は向上するのか?」「福祉用具を使っていた時よりも、ロボットを使った方が生産性は上がるのか?」という意識を持つことが重要です。
 なお、生産性については本稿の1回目に詳しく説明したので、今回はここまでにしておきます。

1.3 費用対効果

 3つ目は、2つ目の延長上の話となりますが、「費用対効果」です。先に述べた通り、高い買い物だからこそ「見返り」を検討するのですが、これについては金額ベースでも考えてみることです。「費用対効果」を意識することは、ロボットの導入を検討する際に非常に重要なことです。なぜなら「10万円なら安いからOK」「200万円は高いからダメ」などと売値だけで一方的に決めつけるべきではないからです。表面的な価格ではなく「費用対効果」を購入時の判断基準の一つに採り入れた方が良いのです。

 例えば、10万円で購入したにも関わらず、すぐに面倒臭くなって使用を止めてしまうかもしれません。これでは「200万円よりは安い買い物だったが、何も見返りがなかった!」ことになります。安いから良いわけではないのです。一方、200万円を払っても1,000万円以上の見返りがあれば、決して高い買い物ではないのです。

 ここまで読んで「まさにその通りだ!」と思った人がいるはずです。しかし、現実問題として少し難しいことがあります。それは「10万円の買い物には、どのくらいの見返りがあるのだろうか?」「200万円の買い物が本当に1,000万円の見返りになるのだろうか?」などと判断を下さねばならないことです。このような判断を購入前に下すことが意外と難しいのです。

 個人が買い物をする際は、多くのケースにおいて感情が判断基準になっています。「いいな!」「欲しいな!」と思って購入するのです。だから企業はあの手この手を使って消費者の感情(欲望・不安・見栄・羞恥心など)を刺激します。それらは本人にわからないよう巧みな方法で行われることも多いのです。そうやって刺激された消費者は、購入時に価格を意識しながらも、費用対効果の概念はあまり持っていないケースが多いのです。だから正当化する理由を見つけ出し、「この買物は正しかった!」「私には必要なんだ!」などと無意識ながらも自身に言い聞かせているのです。

 しかし、個人購入と異なり組織として少し大きな買い物をする際には、「費用対効果」という見返りを意識しなければなりません。

1.4 費用対効果の「見える化」

 ロボットなどの購入は高値になりがちなので、衝動買いではダメ。「費用対効果」を意識しなければなりません。さもないと、「購入するべきか?」あるいは「止めておくべきか?」の判断が上手くできないからです。必要なことは、費用対効果を見える化させることです。費用対効果が見える化されていれば、「200万円は高いから止め!」などと一方的に決めつけることなく、きちんと判断が下せるのです。理事長・施設長などに提案する際にも強力な武器となります。

 そこで、本稿の1回目にお伝えした通りですが、「定義付け」が必要になります。「(施設・自分は)どうなりたいのか?」「どうしたいのか?」ということをはっきりさせておくことです。どこへ向かおうとしているのかをしっかりと定義すること。「どうなりたいのか?」がはっきりすれば、「そのために何を行うべきか?」がわかってきます。次に、「何をすべきか?」がわかれば「それを行うためには、どのような道具を使うべきか?」ということが判明するのです。ここでは詳しく書きませんが、このように整理していくことで、おのずと「どのようなロボットを、どのように活用するべきか?」ということが明確になってきます。「どのロボットを・誰(どういう人)に・いつ・どのくらいの頻度で・どのように活用すべきか」がわかれば、費用対効果がどのくらいになりそうかが見えてくるのです。

 ただし、介護の現場ならではの難しいことに直面します。それは製造業と同じ視点で費用対効果の見える化ができないことです。製造現場では、主に省人化・無人化を目的にロボットの導入を検討します。つまり生産性の向上を狙っているのです。これについては数値に落とし込みやすく、かつ金額に換算しやすいのです。費用対効果の「見える化」が容易なのです。ところが、介護の現場ではロボットの活用によって利用者や職員に笑顔が増えるという効果が期待できても、「果たしてそれをどのように金額に換算するのか?」これが難しいのです。理屈っぽい話になるのでこの点に関してはこれ以上深く触れませんが、このように難しい点があることも踏まえた上で費用対効果の「見える化」を行うのです。

 以上の通り、福祉用具よりも高価格な介護ロボットを活用していくことは、以前とは異なる視点による検討が必要なのです。