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介護に関するロボットやICTの活用について

3.国を挙げて生産性の向上を目指している!

3.1 生産性とは?

 ところで、「生産性」とは何でしょうか? 日常的に耳にするのですが、よく理解していない人もいるかもしれないので少し説明します。
 「生産性」という用語に関し、公益財団法人 日本生産性本部のホームページには、生産性の代表的な定義は「生産諸要素の有効利用の度合いである」と記載されています。また次のような定義が記載されていますので、そのまま紹介します。


 有形のものであっても無形のものであっても、何かを生産する場合には、機械設備や土地、建物、エネルギー、さらには原材料などが必要になります。また、実際にこれらの設備を操作する人間も欠くことができません。生産を行うために必要となるこれらのものを生産要素といいますが、生産性とはこのような生産要素を投入することによって得られる産出物(製品・サービスなどの生産物/産出)との相対的な割合のことをいいます。
 式で表せば、生産性=算出(output)/投入(input)となります。つまり、生産性とは、あるモノをつくるにあたり、生産諸要素がどれだけ効果的に使われたかということであって、それを割合で示したものが生産性ということになります。(後略)

生産性とは?

 先述の説明は製造業向けの内容ですので、かなりわかりにくいかもしれません。そこで簡単な例を示して生産性について改めて解説します。生産性向上の事例については、私が大手外資系企業などで実際に手掛けたコールセンターや物流拠点など、業務プロセス改善プロジェクトの例がいくつかありますが、それをそのままお伝えすると難しい話になってしまいます。そこで、ここでは介護現場の記録の業務を例に説明します。

3.2 記録業務の生産性を向上させるには?

 例えば、平均すると、職員には利用者さん1人の1日分の記録を残すために、紙への記入に4分ほど掛かっていたと仮定します。また、紙に記録した内容を介護ソフトがインストールされたパソコンに入力し、紙を所定の場所にファイリングするなどの作業にも別途4分が必要だとします。つまり、「記録」関連の業務全体をみた場合、利用者さん1人当たりに1日約8分を掛けているとします。もしかしたら「紙の記入やパソコンへのデータ入力の所要時間は職員によってマチマチだよ!」「対象となる利用者によっても所要時間は異なるよ!」などと指摘する人がいるかもしれせん。まったくその通りなのですが、ここではさまざまなケースを全て平均化したという前提で考えてみましょう。
 何かしらの工夫によって、1日あたり1人の利用者さんの「記録」という業務に掛かっていた8分という時間を4分に短縮できたら、どうでしょうか? 8分という時間では1人分の記録しか残せなかった職員が、同じ時間内に2人分の記録を残せるようになったことを意味します。これは生産性が2倍に向上したと言えるのです。
 このように生産性が2倍に向上すれば、以前の半分の時間で、以前と同じ量の仕事を終わらせることができます。同じことの繰り返しですが、以前と同じ時間を与えられた場合は、以前の倍もの仕事量を担うことができるのです。残った時間を別の業務にあてがうことができるのです。

手書きからパソコン使用へ?

3.3 介護現場を含め、どの業界でも「生産性の向上」を目指す

 さて、介護・福祉の現場ではこれまで福祉用具が使われてきました。車いす、床ずれ防止用具、体位変換器、移動用リフト、手すりなどです。これらは、どれも対象が個人であり、自立支援を主たる目的としていたものであり、あまり生産性を意識することがなかったかもしれません。

 実は、生産性という概念は以前から製造業で日常的に使われていました。私が業務プロセス改善プロジェクトで関わった非製造業のコールセンターや物流拠点などでも、毎日当たり前のように使っていたのが生産性という考え方でした。あらゆる場面において、評価の軸として生産性という表現が使われていたのです。でも、「おもてなし」を重視するサービス業などでは、あまり重視されていませんでした。
 ところが、最近ではどの業界においても、「生産性の向上」に大きな注目が集まっているのです。その背景には、人手不足やサービス業における労働生産性の低さが課題となっているからです。

3.4 サービス業における労働生産性が低いために

 公益財団法人日本生産性本部が作成した『データでみる「日本の生産性X働き方改革」~生産性革新によるイノベーションの創出へ~』という資料のPart1には「特にサービス業における労働生産性の低さが課題となっています」と書かれていました。
 製造業についてはアメリカに比べると生産性は低いもののそれほど差は大きくないのです。ところが非製造業ではアメリカの1/3程度の生産性であるとのことです。では、なぜサービス業の労働生産性がそこまで低いのでしょか?

 この資料には大きく2つの要因が指摘されていました。1つはサービス業の多くは労働集約的で、長時間労働という働き方が定着しており、また長引くデフレにより価格が低水準にとどまっていることが背景にあるとのことです。もう1つは「おもてなし」による品質を重視しており、過剰サービスになっているからとのこと。日本では価値に見合った価格設定をしていないことが低生産性につながっていると指摘されていました。

 このように特にサービス業における労働生産性が低いこともあり、国では国土交通省が中心になって「生産性革命プロジェクト」を推進しています。「小さなインプットでもできるだけ大きなアウトプットを生み出す」という生産性革命の基礎にある考え方をあらゆる政策分野に浸透させようとしているのです。もちろん介護・福祉分野もその対象なのです。

 また、2019年4月より働き方改革関連法案の一部が施行されましたが、国が推し進めている「働き方改革」も大きな影響を与えています。先に紹介した『データでみる「日本の生産性X働き方改革」~生産性革新によるイノベーションの創出へ~』によると多くの企業が働き方改革に取り組んでいるとのことですが、その中で最も多いのが「長時間労働の是正」と「業務プロセスの標準化等見直し」だそうです。

3.5 ロボットやICTなどの新しいテクノロジーを積極的に活用していく!

 このように国を挙げてあらゆる分野において生産性を高めようとする動きが活発になっており、介護・福祉分野もその対象なのです。また、冒頭に述べた通り、介護分野の課題解決と新産業の育成という目的からもロボットやICTを活用する動きが盛んです。介護・福祉の現場において、他の分野と同様にロボットやICTの活用が叫ばれているのは、このような背景があるからです。生産性革命、介護分野の課題解決、働き方改革など、さまざまな政策が複合的に働いているわけです。縦割り行政のためにテーマ毎に旗振り役こそ異なりますが、「ロボットやICTなどの新しいテクノロジーを積極的に活用していこう!」という動きについてはどこも同じで変わりないことなのです。