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介護保険の動向と実際例 第4回 地域包括ケアシステムの構築に向けて(その2)

2.地域包括ケアシステムとその背景

1 地域包括ケアシステム

 地域包括ケアシステムの構成要素については、概ね次のとおりです。その狙いは、在宅での生活を継続する限界点を高めることです。その理念は、「ノーマライゼーション」、「ソーシャルインクルージョン(社会的包摂/社会的な支え合い)」、「自助・互助・共助・公助」等です。
 地域包括ケアシステムが必要な理由として、

  •  医療機関の機能分化や入院期間の短縮による在宅での受け皿づくり
  •  介護保険施設である「介護療養型医療施設」の廃止(平成30年3月末)や介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)の利用対象を原則要介護3以上とすることで影響を受けることになる医療や介護を必要とする者への在宅対応のしくみづくり

が不可欠であることがあります。
 また現在の介護保険サービスのうち、全体の約27%を占めている要支援者の多くが利用している「訪問介護」と「通所介護」が介護保険給付から外れることになり、「新しい総合事業」へ再編する作業も加わります。
 これらは、医療が必要な者、重度要介護者、一人暮らし高齢者等を地域で支えるしくみです。
 そのためには、まず、医療・介護の連携が重要であり、次に介護保険給付から外れることになった「要支援の訪問介護や通所介護」を受けていた人たちへの「住民団体等による生活支援サービスの提供」の仕掛けが必要であり、また、施設入所に変わる「高齢者の住まいの場」づくりが必要になります。
 そして、そのような地域をコーディネートできる「地域包括支援センター」の機能の強化が必要となり、実際のケアプラン作成の担い手であるケアマネジャーのスキルアップ(自立支援型マネジメントのスキルの修得等)が重要となります。それらを円滑に実行させるための一手段として「地域ケア会議」を考えることができます。地域包括ケアシステムは、市町村にとっては介護保険所管課の担当領域を越えて、他の部局にまたがっています。市町村レベルでは、介護担当所管課を越えた検討組織が必要になりますし、実際に、部局を横断した検討組織を作っているところもあるようです。
 地域包括ケアシステムの構成要素を分解すると、概ね次のように示されます。

図1 地域包括ケアシステムの構成要素 地域包括ケアシステムの構成要素 *平成25年11月21日 全国介護保険担当部(局)長会議資料

 これらのことを実体化して、平成26年度に策定する第6期介護保険事業計画(地域包括ケア計画)に書き込むことができればいいわけですが、現状ではかなり厳しいのではないでしょうか。

2 地域包括ケアシステム構築の背景

 背景のひとつには、財政状況があります。国債が1000兆円を超え、なんとしても財政再建に取り組まなければならない状況にあること(ただ、同様なことは1980年初頭にもありました。このときは国債が100兆円目前に迫っていたため、財政再建に取り組むことが必須の課題として社会福祉、その他の見直しが行われました。)、次に少子高齢化の進行であり、これらへの対応策の見通しが明確とは言い切れませんが、ひとつの選択として「新たな社会保障制度改革」が行われることになりました。
 表1によれば、人口減少は明白です。総人口でいえば、1970年と2050年は人口が約1億人前後と似ていますが、高齢者と19歳未満者の構成割合を比べるとその違いは明らかです。2020年には後期高齢者人口と前期高齢者の絶対数が逆転し、ハイリスクの後期高齢者の割合が増加しています。
 また、子どもの数が「常に」少ないというこの割合が逆転しない限り、高齢者人口が常に多いという人口構成は変わりません。少子化が改善されない限り、高齢問題への見通しを考えることは極めて難しいと思われます。

表1 年齢(4区分)別人口の推移と将来推計 年齢(4区分)別人口の推移と将来推計 総務省統計局『国勢調査報告』および国立社会保障・人口問題研究所『日本の将来推計人口』(平成24年1月推計)
*=国勢調査結果に基づく補正人口。

 後期高齢者が増えるということはどういうことかと言えば、下表のとおりです。
 年齢と共に要介護認定率は上がりますが、75歳以上では10%を越え、90歳以上ではその68%が要介護状態となる、との調査結果があります。

表2 高齢者人口と要介護認定率 高齢者人口と要介護認定率 (年齢階級別、2009年)
*社会保障審議会介護保険部会資料

 介護保険でいえば、前期高齢者よりも後期高齢者が増えるということは、認定率が上がるということになります。認定率が上がることは介護保険の総事業費の上昇につながりますから、上昇を抑制するためには、例えば介護保険から要支援を外す、介護報酬を下げる、また単価の高いサービス(入所施設の重度化、介護療養型医療施設の廃止等)や、通所事業所等の伸びへの対応も必要になります。
 実際、「社会保障と税の一体改革」で示された将来の整備目標では、介護保険施設の伸びの抑制や一般病床の機能分化とベッド数の抑制が示されています。悲観的な話ですが、これは一面的な見方ともいえます。仮にそのような背景があるとしても、それを踏まえて「どのようなしくみ」を構築し、住民にとって使い勝手の良い制度にするかが課題であり、使い勝手の良い、利用者の尊厳が保持される制度が実現できれば良いことになります。


表3 社会保障・税一体改革による施設整備の方向
1 一般病床(病床の機能分化)
  平成23年度 平成37年度A
(現状投影)
平成38年度B
(改革)
B/A
一般病床 1,070,000床 1,290,000床 1,030,000床 0.798%
・一般病床は、平成23年度の数よりも減少する改革目標
2 介護保険施設
  平成23年度 平成37年度A
(現状投影)
平成38年度B
(改革)
B/A
特養ホーム 480,000床 860,000床 720,000床 0.837%
老健施設 440,000床 750,000床 590,000床 0.787%
920,000床 1,610,000床 1,310,000床 0.814%
療養型施設 約10万床 0   0.00
・改革では、現状投影(延長)と比較して約2割前後を抑制
*社会保障・税一体改革「医療介護に係る長期推計」のデータを加工

 また、表3のように、入所系施設の改革が行われるので、要介護や一人暮らしの高齢者の在宅生活を支える「高齢者の住まい」の確保は重要な課題となります。
 保険料を徴収し、しかし、必要なサービスが提供されずに、「介護離職」や「介護殺人(心中等)」が増えることになれば、制度の信頼感を揺るがせます。そこで、それらに対応できるしくみとして「地域包括ケアシステム」が構想されているといえると思われます。その意味で、地域包括ケアシステムの構築は重要な政策課題です。




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