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第6回 「東京の地域包括ケア」と「今後への期待」

東京の地域ケアを推進する会議委員長 堀田 力氏 インタビュー

3.地域包括ケアが復興にも有効である 

東日本大震災があり、多くの命が失われて、まさに生活基盤も今は失われていると…。 今、この被災地の災害復旧、あるいは復興の取組みが、行われているわけですが、堀田先生は、被災者の復興には、地域包括ケアシステムの構築が重要だというように、市町村長さんや知事さんにお話しされていると聞いております。 「地域包括ケアシステム」が福祉の分野で、いま言われているのですが、これが被災地の復興に有効だということの理由、これはどういうふうに考えたらよろしいでしょうか。
堀田

この「地域包括ケア」の考え方は2003年の「2015年の高齢者介護」という報告書で示され、2010年には24時間巡回サービスという考え方が、その中核として示されました。
本人が最後まで自宅で自分らしく尊厳を持って生きるための、最も進んだ仕組みですから、日本中が、この実現に向けて進んで欲しいし、厚生労働省も進めようとしている。そのことで、一段と福祉や介護が進歩するのです。

今年(23年度)に施行され、来年からは手あげ方式ではありますが、本格実施となることが決まり、予算も見通しがたった時に大震災が発生しました。

今度の大震災が、阪神淡路や中越などと根本的に違うのは、津波により全てが流されてしまったというところです。
これまでの震災の復興は、従前の姿で、しかしそれよりも部分的に充実するというものでした。
今回は、津波でゼロになっているのですから、どのようにでも復興することができます。また多くの方々は、元の場所は、危険性があるから嫌だと言っておられる。そのために全く新しい町づくりをするという事態になった。
これだけ大規模な例は初めてで、今までにやったことのない復興です。

私も被災地を回っていますが、最初の緊急支援・物資支援の時期が終わりますと、生活支援や復興への動きが始まる。阪神淡路等の経験でわかっているのですが、復興する時に「自分はどこに帰る、どこに建物を建てる」、そういうことが、ほとんどの方は見えていた。今回はその姿が見えていないのです。

新しくつくる時には、どうつくるのかというような目的がないと合意が出来ないし、復興しようとする意欲も出ない。だから可能な限り、しっかりした目標を立てるための理念を示したい。

産業についてはその地域独自のものですから、地域の判断に任せざるを得ないのですが、福祉は人がいる限り基本理念はどんなところでも一緒です。
ですから、復興の夢を持ちアイデアを出して行くには、福祉については、理念を示す必要がある。

そのことを、行政は全て理解して予算を準備する。そして何よりも被災にあった方々、その地域の住民の方々が、「私たちの理念は素晴らしい」ということを理解し、その理念を持って、住居はこういうふうにつくろう、行政にはこういうふうにしてもらおう、などの復興のアイデアを出してもらう必要があります。

地域包括ケア以上の崇高な理念は他にありえませんから、最も優れた理念を持って、そういう姿を目指してもらおうと考えたのです。

ですから、3月から4月にかけて、このような理念のもとに元厚労省・東大教授の辻哲夫さん、樋口恵子さん、長岡で地域包括ケアを先駆的にやっておられる小山剛さん、神奈川で非常に新しい考え方で施設を運営されている小川泰子さん、福祉自治体ユニットの事務局長をされている菅原弘子さん、この5人の方にお声をかけたところ、「よし、それを目指しましょう」ということになり、4月に固めて、厚生労働省に持ち込みました。
具体的な図面も書きまして、厚生労働省も、それで行きましょう、仮設の段階からもそれをやりましょうと、ということにまとまりました。

復興会議(東日本大震災復興構想会議)の事務局には、ハードを所管する国土交通省の所管部局が多く入っていますが、ソフトはこれだということで、復興会議の報告書にも載っています。

震災前から私が委員をしていた内閣の「社会保障改革に関する集中検討会議」においても、菅前総理や他の大臣らに図面を渡して、この意義を説明させてもらいました。
そして菅さんはテレビで「こういう案が示された。このような形で震災地は復興して欲しいし、進んだ姿をそうでない地域が真似るようにして進んでくれたら嬉しい。」と発言してくれた。

このようにして、政府はOKとなり、法律も5月に通り、予算も付いて、政府側で進める体制がしっかり固まりました。これ無しに被災地へ行ったら無責任です。大事なことは政府側が了解することではなくて、被災者たちが「よし、やろう」というふうに考えてくれることですから。

それらが固まった5月、6月から9月と、被災地を回り、たくさんの首長さんにお会いしましたが、皆さん賛成して下さいました。

それから被災地の方々、避難所、仮設に入られた方々を回って、この図面を示しました。
大抵のところでは、集合住宅の1階にヘルパーステーションなどが入り、地域が狭くて包括ケアまで行かなくても、なるべく包括ケアに近い、最後までなるべく自宅で過ごせるような、そういう建物、町を作りましょう、そしてしっかりネットワークを作りましょう、障がい者も子供も、これに組み入れましょうということで、説明をしております。

それに反対する人は誰もいないですね。今まで行く道・姿が見えなかったのが、はっきりしたイメージが出来て、これで我々は頑張れますと、被災者の方が皆さんおっしゃってくださっています。

また、仮設から作ろうというので、厚労省がサポート拠点というのを提唱しています。サポート拠点を仮設住宅の外に作り、ここに相談機能や看護、ヘルパーなどを全て置く。配食サービスやサロン、ふれあいの居場所を作っていく。そういう仮設です。
これに70億の予算(地域支え合い体制づくり事業(被災者生活支援等))が付いているのですが、あまり出来ていないのです。

8月27日に、第1号が釜石の平田運動公園の仮設にオープンしましたので行って来ましたが、そこには他にも色々な「ふれあい」の仕掛けがしてありました。
ですから、すでに今の段階で、そういう支え合い、ふれあいのある、しっかりとケアがやれる場所をつくっていく必要がある。この仮設の中のサポート拠点は、24時間開いています。24時間いつでも必要な時に、必要な方の所へ行きますというサービスが、仮設ですでに実現したのです。

ただ、私の考えでは、6月にはできていて欲しかった。非常に復旧のスピードが遅い。そこは残念です。
しかも、そういうサポート拠点を作らない仮設が多い。 場所がどこも狭いですから、一人でも多く入れたい、そういう発想になってしまう。基本的な理解がなかなか出来ない首長さんも何名かおられる。 全体としては、スピードは遅いですが、その方向に向けて進みつつあるというのが現状ですね。

 ≪公益財団法人さわやか福祉財団HP「提言:地域包括ケアの町」より転載≫
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長谷
被災された方の多くは元に戻れていない。復旧・復興に向けては、今までのように「行政は何かやってくれる人」、「国民・市民・住民は受ける人」という関係ではなくて、みんなで暮らしやすい町をどうやってつくるのか。新たな復興に向けたまちづくりとして、 地域包括ケアという考えでつくってみたらどうかというご提案ですよね。
堀田

断言しますけれど、それ以上に住民のためになるという良い考えはありえないですよ。 それは、ものすごい数の人間がどうすれば良くなるかを考えて、それ以上の考えが出て来ていないからです。

長谷
住民参加、行政、住民、事業者が参加し、みんなで地域包括ケアのまちづくりを行おうということかと思います。
これから具体的にできて来るかと思うのですが、堀田先生が理事長をされている「さわやか福祉財団」では、まちづくりや地域包括ケアシステムの取り組み情報などを集めて、いろいろと情報提供をする、そのような仕事もされていると伺っております。
堀田

そうですね、大体主要な被災地には行っていますけれども、なかなか全てまではカバー出来ませんので、進んだところを見せながら、他の住民が「ああいうふうに我々もしたい」と動いてくれることを期待して、発信をし続けています。
ただし、地域包括ケアで大事なのは「生きがい、ふれあい」です。これが無いと、完成しない。自分では食事も出来ず、トイレにも行けない状態でも、家族がいなくても最後まで自宅で暮らしていただこうというのが、これの究極の目的なのです。しかし、それだけでは嫌だと思いますよ。さみしいですよ。やはり、話す人がおり、誰かが横にいてくれるというのが、人間にとって非常に大切なことです。市民、住民が、自らお互い様の精神で実現して行く。それが伴ってこないと、国が言う地域包括ケアが実現しても、恐らく多くの人は、さみしいから、やはり施設に入ってしまうと思うのですね。それでは、何のための地域包括ケアか分からない。
地域包括ケアが本当に優れたものとなるには、必ずこの「生きがい、ふれあい」のサービスの仕組み、これは非公式な住民同士がつくるサービスですが、これが同じように出来上がっていないと、無理なのです。
我々の元々の分野ですから、そういうふうにして「ふれあい、生きがい」を作りながら、地域包括ケアもやがて出来ていくという進展を望んでいるのです。

長谷
「ふれあい」や「生きがい」、特にふれあいは、突然今日からふれあいなさいと言っても、積み上げが必要ですよね。これは非常に日常的な積み上げですよね。
堀田

これは人間の本能にあります。
今度、東大教授の辻さんらが考えられた、ケアタウン構想では、仮設を向い合わせに造り、その間にウッドデッキを置いて、上には屋根を渡す。そのウッドデッキをふれあいの場にするという、大変に優れた発想ですが、これが先ほど言った釜石市の平田運動公園に初めて出来て、運用に供されています。
もうすでに、たくさんの人が集まっていますよ。イスがないからみんなフロのイスに座って。
「大体、午後に集まるのですか?」と聞いたら「いや、朝のラジオ体操が終わった後から、一日中みんなで集まって、話したりしている」と言っていました。
それくらい、何にも仕掛けをしていなくても、そういう集まる場があるだけで、ふれあう本能を、人は持っているわけですね。