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第6回 「東京の地域包括ケア」と「今後への期待」

東京の地域ケアを推進する会議委員長 堀田 力氏 インタビュー

2.キーワードは「生きがい、楽しみ、ふれあい」

この地域包括ケアシステムの東京版は、国には無い重要なものとして「生きがい、楽しみ、ふれあい」、これがキーワードとして入っております。国との違い、なぜこれが入ったかについて伺わせていただけますか。
堀田

国は「尊厳」という言葉を、2005年の介護保険法見直しの際に入れてくれた。これは非常に画期的なことで、法律の第1条を改正するなど、まず法律の世界ではありえないことなのですが、その改正が、介護保険の目的を一段と高めてくれた。この「尊厳」という言葉は、私が座長として関わった厚生労働省の「高齢者介護研究会」で打ち出したものです。 人としてのプライド、自尊心、人間としての矜持、そしてその人がその人らしく生きること、それが「尊厳」です。世界人権宣言やドイツの憲法などには全ての目的に尊厳が入っている。
尊厳は人間としての精神的なものですから、それがケアだけに留まるはずはない。自分の存在を肯定し、自分の生き方や能力発揮に満足感を得て、誇りを持って生きる、これが「生きがい」ですよね。これが、尊厳の一番基本になります。
「マズローの図面」で言えば、自己実現というのが、正に「生きがい」ですよね。

堀田力氏
また、尊厳というのは他者との「ふれあい」がないと完結し得ないものです。だから、それも非常に重要な要素です。
たとえば一人で絵を描いて「俺は天才だ、ピカソだ」って言っていても、それだけの話です。仲間たちがいて、「あなたの絵は素晴らしい」と褒めてくれて、初めて自己実現というものは完結する。地域、社会などの他者が自分の存在を認め肯定してくれることによって、自己実現は完結するわけです。

この「生きがい、ふれあい」とは、尊厳を生み出す基本的なものですから、「生きがい、ふれあい」という言葉を入れることは、必然なのです。それを明記したのが、東京都のこの報告書の意味なのです。

そういうことですから、何もケアにこだわる必要はないわけです。
尊厳という目標を掲げた以上は、生きがいを実現するためのいろんな活動やふれあい、安心できる社会を実現するために、市民が自ら動かなければいけません。それは、家族はもちろんのこと、ボランティアであり、地域であり、仲間です。
そのような活動をしっかり取り入れて、ケアと組み合わせてサービスを提供する。このような仕組みを作れば、法律の尊厳という目標は実現できる。それを東京都は初めて言ったわけです。法律の精神を初めて具体化したのが、東京都の報告書である、このように言って良いと思います。

長谷
先ほど「みんな」のなかの第一義的には本人が入る、本人が主体的に選び取っていくというお話がありました。
当然、尊厳というのも、生きがいとか、自分がどう生きていくのだ、あるいは「ケアされる人」というのではなくて、要介護の利用者が介護者と一緒に自分の生活をつくっていくと…。そういう考え方が、さっきのサブタイトルにある「生きがい、楽しみ、ふれあい」それがかなり強く入っているということでしょうか。
堀田

そうですね。それがしっかりと柱として入っていますね。

長谷
これからは「尊厳」と言った時には、介護されているだけでの尊厳というのは多分ないだろうと。やはり自分の生き方は自分が作って行くことが大切なのだろうと思います。そのためには「介護のパラダイム」の転換が必要になる。パラダイムの転換を図るためにはプロの事業者の責任が大きいですね。
堀田

そうですね。ですからケアマネジャーがまずやり方を変えなければいけない。今はケアだけしか見ていないし、ケアも全部は見ていないケアマネジャーが多い。これを、全体を見て包括的なサービスを組み合わせていくようなケアマネジャーに変えなければいけない。

本人は、もっとわがままでなければいけない。ケアされる立場でおとなしくさせられて来ている。あなたはもっと自分を出して良い、したいことをしたいと言って良い、助けてもらってやりましょうと。本人も生きがいを持つ方向に生き方を変えていかなければいけない、このように東京都は言っております。

例えばケアをする人が来ていない時も、仲間たちと一緒に、寝たきりなのにカラオケをやっている人もいます。絵を描いて楽しんでよし、音楽を聴いてよし。中には腕の筋肉がほとんど動かないので、パソコンで工夫しながら俳句や短歌を作って発信している方もいる。それが尊厳。尊厳を保つための「生きがいを持って生きる」とは、そういうことなのです。

長谷
先生のケアマネさんの意識を変えなければ、というお話がございました。
実は私ども当財団では「通所介護」について検討をしているのですが、「一緒につくる介護」を目指そうとすると、やはり介護の従事者の方もそう考え方を転換していただかないと非常に難しい。介護を受ける方も、「私は要介護になったから、何かサービスを提供して」と思うだけでなく、どんなサービスが必要なのか事業者と一緒に考えて行く方向に転換するかと思うと、なかなか課題としては重いなと考えております。
堀田

おっしゃるとおりですね。一番良いのはケアマネジャーではなくて、本人がケアプランを立てていけるようになることです。

長谷
それは「セルフケアプラン」ですね。
堀田

そうですね。「セルフケアプラン」は、全国マイケアプラン・ネットワークの島村八重子さんがずっと進めて来られた。彼女は「さわやか福祉財団」にいたこともある人です。

長谷
セルフケアプランという考え方は「自分の生活を自分で設計する」というのが基本ですね。 ケアマネさんは、利用者とどう関わればよいのでしょうか。
堀田

ケアマネジャーが本人をどうアシストし、希望を実現させるかということですね。