1 制度設計にあたっての考え方の整理
今回の改正は、現時点(平成23年1月31日)では、内容的には大きな改正とはいえません。しかし、“社会保障についての定義の転換を踏まえた改正”という意味では、考え方の転換となり、大きな改正といえます。
今回の改正の考え方の転換は、次の2点です。
今回の改正の考え方の転換は、次の2点です。
- 社会保障の定義を、「参加型社会保障(Positive Welfare)」と新たに定義づけ、その考え方に沿って、制度改正の設計を行なったこと
- 制度の設計に際して「ペイアズユーゴーの原則」を平成22年6月の閣議で決定したこと
「参加型社会保障」については、平成22年版厚生労働白書で大きく取り上げています。そこに基本的考え方が示されていますが、特に重要と思われるのは、次の点です。
これは、社会保障制度の担い手として、政府のみではなく、住民相互の助け合い等も積極的な役割を果たすことを想定しつつ、地域での暮らしを実現していこうとするものです。地域の絆の崩壊や限界集落が多数発生している現在の日本では、実現には相当の努力が必要と思われます。また、個人の力を超える部分も多いはずです。
地域への参加は、地域社会全体で、次のような社会問題の解決が図られるような地域にしていこうという趣旨のようです。
・社会的包摂(Social Inclusion)の考え方に立って、労働市場、地域社会、家庭への参加を保障することを目指すものである。(白書p144) | ||
地域への参加は、地域社会全体で、次のような社会問題の解決が図られるような地域にしていこうという趣旨のようです。
- 労働市場でいえば、非正規労働者が全体の1/3となり、現在の就職難をもたらしています。
- 家庭への参加といえば、一生結婚しない人の割合が、男子で言えば今日の8人に1人から、約3人に1人に向かっています。女子は、8人に1人程度といわれています。その結果、高齢者のみならず若い人たちの単身世帯の比率も高まります。
「ペイアズユーゴーの原則」は、サービスについて「負担と給付」の関係を明確にして、サービスの拡充や新しいサービスを創るときは、その財源(負担)を持ってこなければ、サービス拡充は認めないという原則です。
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日本は人口減少下の少子高齢社会となっています。短期的には、少子社会対策が求められ、また高齢化の進展、特にリスクが大きい後期高齢者(年齢が75歳以上の者)が増加し、単身世帯が増加するので、医療・介護ニーズは増大します。
この増大するニーズに合わせて、サービスを拡充することは財源を持ってこなければ認めないという考え方です。つまり、介護ニーズが増えても財源がなければ対応しないという原則です。分かりやすくいうと、サービスを減らすか(例:家事援助等の生活援助サービスを介護保険から外す等)、負担を国民に負ってもらうか(保険料を上げる、消費税等を上げる、要介護者の利用料を上げる等)しないと駄目という原則ともいえます。 - 実際、介護保険法の改正を議論した介護保険部会での検討内容は、この方向性に沿ったものです。
この発想の転換は、日本の社会保障制度のあり方の抜本的な見直しが必要なのではないでしょうか。現在の低負担の福祉を続けるという前提では難しいと思われます。