年とともに気配りしたい服のこと

3.着替えをらくにするために 〜とくに上衣の場合〜

1. 服をらくに着脱するには

 

図3 服の着脱は、主に上肢の肩、肘、手首、手指の関節や筋の働きによって行われます。さらに、無意識に首や体幹がそれに協力する動きをして、スムーズにかつきれいに着脱ができていきます。(図3)

 ところが、身体側のどこかにひとたび不都合なことがおこると、今まで何げなく行っていたこれらの動作が同じようにはできなくなってしまいます。

 そのようなときは、上肢の動きに合わせて着脱の手順を考え直すと、らくに着替えられる可能性があります。


【着脱のポイント1】服の形と素材を考えて

 服はたんに着替えのことを考えるだけなら、大きいサイズの服が便利です。しかし、着ているあいだの着くずれを防ぎ、きれいなシルエットを保つことを考えたら、大きければ良いわけではありません。
 服の上衣の形には、かぶり式と前あき式があります。それらの着脱のしやすさは、上肢の動きによって変わることもありますが、どちらが便利かは、身体の状態(とくに首、左右の肩と肘)、自分で着るのか手伝ってもらうのか、着替えのときの姿勢(座っているか寝ているかなどの状況)、留め具の有無などによっても違ってきますので、状況にあったものを選びましょう。


【着脱のポイント2】着脱に影響するのは服の背幅とアームホール

図4 一般に、服の中で着脱に一番影響するのは、上衣の場合、背幅とアームホールの大きさです。ただし、同じ人の服でもデザインによって違うので、服の種類別に着脱しやすくする方法を丁寧に考えていくことが大切です(図4)。

 上衣の着衣は、二番目の袖入れ、脱衣は初めに脱ぐほうの袖抜きが大変です。なぜなら、いずれも反対側の肩が袖を通した状態にあるため、身動きが取りにくいからです。この場合、背幅やアームホールの位置や大きさ次第で、らくに着脱できるかどうかが決まります。
 具体的にいうと、図5の肘点が、図6の脇の下を通過しなければ着脱できません。そのため、着る人の肩先から肘までの長さ(A)と服の肩先から脇の下までの長さ(a)が大いに関連してくるのです。
図5、6

 図7は肩や肘が動きにくいと肘点が通過しにくいですが、図8のように背幅やアームホールを大きくすることで、入りやすくなります。
図7、8

 着る人の肩から肘までの長さ(B)が服の肩から脇の下の長さ(b)に近いことを一つの目安にしてみましょう(図9、10)。
図9、10

 ただし、背幅やアームホールを大きくすると、スマートなシルエットになりにくくなります。Aとa、Bとbの関連は、あくまで基準として考えてほしいことであり、決して同寸にするべきと言っているわけではありません。
 2.のリフォーム例を参考にしながら、その服のデザインに合った方法で、着脱しやすくなるリフォームを試みてください。


【着脱のポイント3】利き手の袖入れはあとから

図11 一般に袖通しは、動きづらい側の腕から先に袖を通します。その理由は、まだ服がまったく身につけられていないフリーの状態になっているほうが腕を動かさずに袖を入れられるからです。(図11)

 2番目に通す袖入れは、すでにアームホールの位置が限定されているために、肩や肘の動きが良くないと入れにくくなります(図4参照)。



【着脱のポイント4】袖ぬきは反対の肩先をはずしてから

 脱ぐときは、一般に利き手側の袖から脱ぎます。しかし、前あきではいきなり利き手から脱ごうとしても、もう一方の肩が被われているためになかなか脱げません。(図12)

 あとから脱ぐほうの袖の肩先だけをあらかじめはずしておいてから利き手側の袖を脱ぐことで、両側の袖ぬきがらくにできます。(図13、14)
図12、13、14


【着脱のポイント5】最初の袖入れはねじらないで

図15、16 伸びる素材は着脱がらくで便利だと思われがちですが、仕上がりがねじれたままになりやすいため注意が必要です。
 たとえ何とか着られたとしても、袖付けから襟ぐりにかけて強くねじれたり、背中が完全に下ろせないなど、きれいに着こなせません。(図15、16)

 とくに一番目の袖入れの際に袖ぐりをねじらせてしまう着方をすると、見た目の美しさを損なうことはもちろんですが、着脱のしやすさに必要な身幅やアームホールの大きさが十分に確保できなくなってしまいます。

 この場合の着方としては、まず、はじめの袖入れの際に、袖下縫い目線を上にします(図17)。肩まで入ったら引き続き頭入れをしてみると(図18)、肩回りのねじれはほとんどないことがわかります(図19)。きれいで、かつ引っ張られることなく袖入れができます。図はかぶり式の例ですが、はじめの袖入れは前あき式も同様です。
図17、18、29