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  3. 介護施設のICT化とロボットの活用で介護はどう変わるか
  4. 施設導入に係る課題
特集記事

介護施設のICT化とロボットの活用で介護はどう変わるか

介護ロボット等の施設導入から生じた好影響と悪影響
介護ロボット等の施設導入に係る課題と今後の展開について

介護ロボット等の施設導入に係る課題と今後の展開について

1.施設導入に係る課題

 砧ホームは、平成28・29年度東京都ロボット介護機器・福祉用具活用支援モデル事業において、500施設以上ある都内の特別養護老人ホームの中から唯一のモデル施設に選定されました。その後、毎年300名以上の見学者を施設案内し、介護ロボットやICT(Information and Communication Technology )機器をどの様に活用しているのか、またどの様にしたら活用できるのか、高齢・障害の分野を問わず、ニーズ・シーズの立場を超えて、時に海外からの疑問や関心に応えてきました。多くの施設の方々と意見交換をさせていただくなかで、介護ロボット等の施設導入にかかる課題がいくつか見えてきました。以下に、大きく4つの課題を取り上げ、解決の糸口について解説します。


図1:砧ホームでの見学受入れ状況

【図1:砧ホームでの見学受入れ状況】 

1)費用対効果への不安

 介護ロボットの多くは高額であるため、価格に見合った効果が得られるのか、という不安から導入に踏み込めない施設は少なくありません。「せっかく高い費用を出して導入したのに、今は倉庫に眠っている」といった事例を耳にすれば、なおさら身構えてしまいます。

 そもそも価格に見合った効果といっても、介護ロボットの効果は活用することによって得られます。介護施設であれば機器の使い手は多くの場合、現場の介護職員です。“費用” は機器に秘められたポテンシャルの代償ですが、その効果は、介護職員を中心とする組織の活用力(以下、“組織力” )によって決まるのです。つまり、介護ロボットは “資金力” があれば買えますが “組織力“ がなければ使えないのです。同じ機器を導入しても、施設によって倉庫に眠ってしまうのはそのためです。“組織力“ とは、機器の使い勝手や効果を上げるために、これらを評価しながら使い方のルールを更新し続ける組織的な能力のことです。言い換えれば、介護ロボットの活用を手段とした課題解決のためのPDCAサイクルを回す能力ですので、小さなことでも日頃から業務改善のチャレンジを繰り返すことで “組織力“ は意図的に高めることが可能です。


図2:組織体制

【図2:組織体制】  

2)人員削減効果への過度な期待

 「このロボットを導入したら何人職員を減らすことができるか」という質問もよく受けることがあります。『費用対効果への不安』と似たような課題ですが、介護ロボット等が人を減らすのではなく、私たちが工夫をして減らすことが人員削減のあり方の本質です。

 少子高齢化が進み、我が国の生産年齢人口は年々減少し、人口に対するその割合は加速度的に低下していきます。特に人材不足が著しい介護業界において、これからもこれまでと同じように人手をかけてやっていくことは、益々困難を極めていくことが想像に難くありません。このような状況において、まず私たちがやらなければならないことは、業務改善によって既存の介護を生産性の高い効率的な介護に転換することです。介護ロボット等があろうがなかろうが、サービスの質を維持しながらより少ない人員で介護を継続する工夫がまずあって、その過程を介護ロボット等がサポートしてくれるという発想の転換が必要です。介護ロボット等は、人を減らすための道具ではなく、あくまで介護を補助し自立を支援する道具なのです。

3)一時的な生産性低下への無理解

 新しいオペレーションに変更すると、一時的にも必ず生産性は低下します。この法則を理解していないと「導入したのにかえって大変になった」「以前のやり方の方が良かった」という不満だけを残して活用が続かなくなってしまいます。反対に、あらかじめこの法則を理解していれば、一時的に生産性が低下する状況を「いずれ前に進むための時間」と捉えポジティブに目の前の機器の活用に集中することができるのです。この法則は、どの介護ロボット等にも当てはまる、機器を導入する上での最も重要な知見と言えるでしょう。

4)保守的な思考

 介護ロボット等を導入すること、つまり新しいことを始めることは “変化する” ということです。 “変化する” には大なり小なりエネルギーを要します。「面倒くさい」「変わりたくない」という気持ちも解らなくはありませんが、今が一番良いと思っているうちは “進歩” はありません。新しいテクノロジーの導入によって、これまで培われた介護技術の低下を心配する声を聴くこともあります。しかし、前進し続ける時代の只中において、現状維持は後退を意味します。導入のチャレンジは新たな専門性の獲得であり、組織にとって必要な成長の機会と捉えることが、事業の持続可能性を支えることに繋がるのです。

5)解決の糸口

 これらの課題に共通する解決の糸口は、私たち機器を使う側の “進化” にあると言えるでしょう。腕を組んで機器のいたらなさを指摘するだけではなく、謙虚に自らの組織を点検し、時代の要請に応えられるよう “組織力” を高める努力が必要です。もちろん介護ロボット等が “進化” することは必要ですが、私たち使う側も大いに “進化” する必要があるのです。このことは、総じて介護ロボット等の活用に不可欠な原理であると思います。この先も “進化” した機器を活用することができるのは、やはり “進化” した私たちであるのです。


図3:活用理念

【図3:活用理念】