現在位置 : 福ナビホーム > 特集記事 > 「認証保育所制度について」 > 第2回 東京都福祉局 子ども家庭部子育て推進課長に聞く
第2回 東京都福祉局 子ども家庭部子育て推進課長に聞く
 前回認証保育所の特集で制度の概要を説明いたしましたが、今回は、認証保育所制度の所管部である福祉局子ども家庭部の雜賀(さいか)子育て推進課長に、東京都の保育事情や認証保育所制度創設の理由、制度に対する反応、これまでの実績、今後の課題などについてお話をお伺いしました。

~福祉局子ども家庭部 雜賀(さいか)子育て推進課長に聞く~

福ナビ

 福祉改革の中でも、特に認証保育所制度が福祉改革の目標を大きく上回って実施されていることを聞きました。まず、どうして認証保育所を創設したのかをお伺いしたいと思います。

雜賀課長

 端的に言いますと、現在の認可保育所の保育サービス内容では、都民の保育ニーズにあった都市型の保育サービスが十分に提供できていないという点が挙げられます。

 都内には国の基準で設置されている認可保育所が約1600カ所あります。総定員で15万8千人余りの児童を受け入れることが可能ですが、これだけ保育所があっても、保育所への入所を役所に申し込んだけれど入ることができなかった待機児童数は減少していません。都内で5206名もいます。また、表には現れない潜在的な待機児童も大きな問題です。例えば夜遅くまで預かってくれる保育所がないとなると、役所に申し込まないで、ベビーシッターなりベビーホテルを利用されているようなケースがあります。このようなケースは、待機児童にはならないのですが、内閣府の調査によると東京で約7万人にのぼるとされています。保育所をつくってもつくっても待機児童が減らないのはそうした理由があります。福祉局では、サービスを提供した上で待機児童の解消を目指したいと考えています。

 先ほど顕在的な待機児童数が5206名いると申し上げましたが、一方で認可保育所の定員の空きも、5000名ぐらいあります。3歳~5歳児は幼稚園の入所年齢と重なってきますので結構空きがあります。しかし、0歳から3歳未満児はすぐにいっぱいになってしまいます。

 私どもでは3つのミスマッチがあると考えています。

 ひとつは、欲しいサービスがないという問題です。都内に1600ある認可保育所で、早朝から夜遅くまで開いている、13時間以上開所している保育所は都内に47カ所しかありません。平成9年度の数字ですが、東京の15歳以上の女性の有業率は51.5%に達しています。就業形態も様々で、常勤ばかりでなく非常勤やパートが増加し、夜間勤務や不規則勤務も増えています。当然のことながら様々な時間帯に対応できる保育サービスが必要になっていますが、それが不十分だということです。

 ふたつめとして、利用年齢の問題です。利用者の要望が高いのは0歳から3歳未満の児童ですが、全体では0歳児保育を実施しているのは全体で1200カ所余り、私立保育所では、85%の保育所が0歳児保育は実施しているのに対し、公立保育所では65%しか実施していません。ニーズのたかい0歳~3歳未満児のところでの枠が広がれば待機児童は随分解消されるわけです。

 3つめとしては、地域的な問題です。利用者が利用しやすい場所になかったりするため、同じ地域にある保育所でも、一方の保育所はいっぱいなのにもう一方の保育所は定員の空きができてしまうような問題です。

 このように最初に申し上げた都市型の保育ニーズに十分応えていないということが認証保育所制度を創設した理由です。

福ナビ

 多様な保育ニーズの十分応えるようなサービスになっていない、特に大都市特有の、東京は24時間活動している大都市ですからその特性にあったサービスがないということですね。ただ、東京都の保育施策は他の自治体と比べても進んでいると聞いていますが・・・。東京都から他県へ転居した方などからも保育料や、保育時間が随分違うとよく聞きます。それなのにどうして東京都独自の基準による認証保育所が必要になったのでしょうか。

雜賀課長

 確かに東京都は、保育所の増設、保育士の増配置、特別保育、障害児保育、保育室等への運営費補助、夜間延長保育・・・・と、これだけではありませんが、都だけにしかない加算、国基準に対するサービスの上乗せを行ってきました。確かに、全国的に見てもこれだけのサービスの上乗せをした自治体はないかもしれません。しかし、待機児童の問題は解消されていませんし、保育サービスの提供も不十分です。

 平成9年度から福祉の仕組みが措置から契約へ変わったといえ保育に関してはシステム的にはほとんど変わっていません。

 認可保育所への入所は、利用者が区市町村に申し込み、区市町村が審査・調整・決定する仕組みになっていますが、手続きが煩雑な上に、決定までの時間がかかり利用者側からみた場合、たいへん不便なしくみになっています。保育所から見ても入所相談は、直接保護者とやり取りしないので保護者のニーズがどこにあるのか把握しづらい仕組みになっています。

 保育料の流れをみても、保育所に直接保育料を納めるのではなく、区市町村に納入するため保育所としては直接お金をもらっているという感覚がない。契約ということで同等の立場にたっているはずが、ともすれば利用者の声に耳を傾けなかったりすることも起こっている、まだまだ利用者本位の仕組みになっていないのです。

 これらの問題を解決するためにいろいろな主体(事業者)が参入して競い合いの中で保育サービスを充実させていく、これにより認可保育所のサービスも改革し利用者本位のサービスを実現していく。いろいろな事業者が参入しやすい制度を東京からつくる必要があったのです。

 多様な事業者の参入ということでは、平成12年から認可保育所にも企業が参入できるようになりましたが、今、都内には4か所あるだけです。国が基準を変えて株式の参入を可能にしても参入はすすんでいません。

 やや専門的な話かもれませんが、企業などが、認可保育所を運営する場合、施設の会計と法人(企業)の会計を分けなければならず、運営が非常に窮屈になっています。剰余金がでれば国や自治体からのお金を減らされる、剰余金が出れば次の事業展開なりに使いたいというのが株式会社のふつうの発想ですがそれが規制されてしまう、そういう問題を持っているわけです。認証保育所にはそのような規制は一切ありません。経理は株式会社に任せる仕組みになっています。ですから、国の基準に比べはるかに参入しやすい仕組みになっています。やはり国基準の制約のない独自の基準が必要だった訳です。

福ナビ

 独自の基準の特徴はなんでしょうか。

雜賀課長

 認証保育所の基準は、今まで、都民の保育ニーズに十分に応えていなかったところを基準化したところに特徴があります。

 まず、多様な時間帯に対応するため13時間以上の開所を義務づけました。認可保育所は47カ所しか13時間以上開いているところはありませんが、認証保育所は、現在、179カ所ありますが、すべて13時間以上開いています。

 特に待機児童が多い、また保育ニーズの高い0歳~3歳未満児に対応するため3歳未満児を定員の半数以上、0歳児保育を義務づけました。

 場所の問題でも、A型は原則として駅から5分のところに設置することを基本としています。

 利用申込みについても、利用者が直接認証保育所に申し込み、契約が成立すればすぐ入所できる仕組みになっています。 また、情報の開示を積極的に行っているのも認証保育所の特徴です。

福ナビ

 結局今まで認可保育所では十分にニーズに応えられなかったところを基準にした訳ですね。お話をお伺いしていて心配になるのは、まず、これだけの基準を満たしてサービスを提供できる事業者がどれだけいるのか、実績はどうか、サービスの内容はどうか、それから、保育料が高くならないのかということですが・・?

雜賀課長

 まず、サービスを提供する事業者の問題ですが、先ほども申し上げましたが、多様な事業者が参入できるように基準をつくっています。また区市町村と分担して運営費、A型で駅前に設置する場合は、改修経費を補助しています。

 実際に創設してみたら、予想を上回る参入がありました。多くの区市が、事業者の提案を求める「コンペ方式」など事業者間の競い合いを促進しています。具体的には、区市が保育ニーズを分析し、この駅に近いところに認証保育所をつくりたいということを事業者に示す。事業者は、場所やサービス内容を区市に提案する、区市は提案されたものの中から一番良い提案を採用するという方式です。この方式だと事業者がいい場所といいサービスを示せなければ参入できないことになります。都内に複数の認証保育所を持つ企業も増えています。企業はひとつのノウハウを持つと次の地域へも参入しやすいようです。

 現在までの実績は、A型、B型あわせて2年間で179カ所、定員にして5106名、実際利用されている方は、もっとも保育ニーズの高い0歳児から3歳未満児が8割を占める状況で、当初の目的に合ったものになっています。

 保育サービスの内容ですが、英会話やピアノ等をとりいれたものもあり、これまでの認可保育所ではできなかった教育的な要素をとりいれたものが増えつつあります。保育所内にwebカメラを設置しインターネットや携帯電話で子どもの様子を見ることができるサービスを提供しているところもあります。

 利用料の問題ですが、事業者が自由に設定してよいことになっていますが、認可保育所の国の徴収基準を上限としています。具体的には、月220時間以下の利用の場合、3歳未満児で月額80,000円3歳以上児の場合は、77,000円を超えない料金設定となっています。実際に上限いっぱいで料金設定しているところは少ないです。

福ナビ

 平成13年8月1日、認証保育所の第1号の開所式で石原知事は「国の規格と違って、全ての施設で13時間開所するし、0歳児も預かる。そして、便利な駅前にある。保育という非常に大事な、国の将来・運命を託す福祉事業に新しい1ページが開かれた。そのうち厚生労働省の役人も見に来ることになるでしょう」とあいさつしました。その後、厚生労働省や他の自治体からの問い合わせはありますか。マスコミなどの反応はどうでしょうか。

雜賀課長

 厚生労働省から呼ばれて、認証保育所制度について説明したことがあります。強い関心を持っていることは確かだと感じています。東京都では認証保育所制度を制度的に認めるよう国に働きかけているところですが、たいへん大きな問題なので、今すぐに国として保育所制度をこうするとは言えない状況だと考えられます。

 他の自治体からの関心もたいへん高いです。特に首都圏の市からの問い合わせが増えています。東京都と同じような問題を抱えているようです。

 マスコミの取材申し込みも多く、テレビ放映や新聞、雑誌等に多数取り上げられています。一般的には認可保育所で進まないサービスを認証保育所が補っているという取り上げ方が多いです。総じて認証保育所制度は高く評価されていると思います。

福ナビ

 認証保育制度の今後の課題はなんでしょうか。

雜賀課長

 利用者の問題で言えば、神奈川や埼玉にお住まいの方で、都の認証保育所を利用した方がよいような場合、特に都と県の境にお住まいになっているような場合ですが、認証保育所が都の独自制度であるため各県から公費が出せず、公費がない分、利用料(保育料)が高くなってしまうという問題が発生しています。この問題は、国が認証保育所を制度的に認めなければ解消が困難な問題です。

 それから、今の認証保育所の保育士や職員のレベルアップを図る、制度ができてからまだ2年余りですからまだ慣れていないというところもあります。サービスの質の維持向上ということも大きな課題です。

 一番大きな課題は、認証保育所を突破口として、旧態依然たる認可保育所の仕組みを変えていくことです。認証保育所と同様に、直接契約できる制度にすること、保育料の設定も一定の基準のもとに事業者の自由にできること、施設の整備は民間事業者も補助対象とすること、保育所の面積基準を大都市にあったものにすること、人材についても幼稚園教諭とか多様な人材を活かし様々な創意工夫ができるようにすることなどです。これについて、今年東京都は、厚生労働省に対し最重点事項として要望しました。

 同時に、国が認証保育所を制度的に認め、認証保育所を国庫補助の対象とすることも大きな課題です。認証保育所は、国からの財政援助は1円もなく、都と区市町村の財源で運営されています。都としては、こうした地域の実情にあった自治体の独自の事業手法を国が認めるよう強く働きかけていく予定です。

福ナビ

 今日はたいへんお忙しいところたいへんありがとうございました。福ナビでも認証保育所の情報提供に努めていきたいと思います。