評価機関としての調査結果
調査時に観察したさまざまな場面の中で、調査の視点に基づいて評価機関が選定した場面
土曜日の午前、食堂のテーブルで文字カードを使って遊び始めた子どもが職員の所に2枚のカードを持って来て、職員の胸の名札を指す。笑顔で受け取った職員はカードの2文字と、名札の名前2文字とを交互に示し、繰り返し読み上げる。子どもはそれをじっと目で追い、聞いている。職員がテーブルで「ピンク」「黄色」と声に出しながら色別にカードを集め始めると、その度に子どもが「きゃー」と笑い声を立てる。「○は?」と職員が示した文字カードに子どもが首を横に振り「嫌なの?」と聞き返すと首を縦に振ったのを見て、職員は別のカードに変える。
選定した場面から評価機関が読み取った利用者の気持ちの変化
子どもは、文字カードを並べながら職員の名札の文字と同じ文字のカードをみつけたことが嬉しくて、それを職員へ知らせようとしているように見えた。受け取った職員が2つの文字を、ひとつの意味を表す言葉として子どもに伝えると、子どももそれを理解しようと、懸命に考えているように見受けられた。また、文字カードと色とを結びつけて遊ぶ方法を職員によって示され、新しい遊び方を見ているうちに、子どもの中で楽しい気持ちがどんどん膨れ上がっていく様子がうかがえた。そして、職員の提案に対し自分が首を振った行為を、否定することなく言葉へと転換して職員が聞き返し、さらにそこで示した自分の意思に沿ってカードが変わったことにより、気持ちが相手に伝わっているという安心感と、気持ちを受け入れてもらえた充足感、他者に認めてもらっている、自分自身の存在への肯定感をそれぞれ感じているようにもうかがえた。
「評価機関としての調査結果」に対する事業者のコメント
当該児童は、就学前に入所した当初は発語が無く、クレーン動作を用いて自分の要求を通す事を主とし、要求が通らないと頭を床に打ち付ける、激しく暴れる、泣く等の行動に発展するといった、一方的なコミュニケーションしか身に付いていなかった。施設側は当初より「精神面の安定」「自主性の尊重」「ADLの向上」に着目し、本人の気持ちや甘えを最大限受容しつつ、自信をもって出来る事を増やす支援を行なってきた。要求等が通らず不安定になった時は、スキンシップや場面転換など繰り返し、落ち着くのを待ってから「できること・できないこと」の説明を伝えてきた。コミュニケーションについては、入所後1年ほどして本人の興味関心の幅が広くなってきたことを受けて、絵や仮名のカードを導入した支援に切り替えた。本人も意欲的でカードを覚えることも早かったことからカードを使ったコミュニケーション方法を実践しているところである。学校入学後は担任と情報の共有と支援の統一を図っている。最近では発語も少しずつ増え絵カードでの要求も出来るようになった。職員は、本人の興味や関心を敏感に察知し意欲に繋げることで本人の自己肯定感や自主性を伸ばすよう支援している。