東京都福祉サービス第三者評価  評価結果

共通の理念・方針のもとで保育関連事業を全国展開する法人グループが一体的な管理体制のもと、エリアごとに各事業所の運営をサポートしている。今年度より法人内の異動により就任した施設長は、必要に応じて保育の現場に入り、子どもと家庭の状況や運営上の問題等の把握に努めている。職員のモチベーションを高めながら、法人の目指す保育の実現に向けて、着実に歩を進めている。各職員のキャパシティを冷静に測りつつ、計画を前に進めるスピードを調整するハンドリングが求められる。

施設長には日常の保育に関する事項や法人が設定した予算の範囲内で自園の経費をコントロールする権限が与えられている。法人全体として現場のトップである施設長の育成に力を入れて取り組んでおり、年間の研修計画に基づき、毎月、人材マネジメントと保育の質のそれぞれのカテゴリーごとにテーマを設定して、同一エリア内の事業所の施設長が学びを共有している。研修の講師は法人役員の他、本社の管理職と施設長が交代しながら務めており、各事業所の主任クラスの職員による横断的な会議との連動を意識したカリキュラムを策定している。

法人が目指す保育の基本理念や目標については、パンフレットやホームページ等に明示している他、入園時の面談や年2回開かれる保護者懇談会等の場で、園が目指す保育についても保護者に説明している。今回実施した利用者調査の結果から、保育内容を保護者に伝えきれていない側面もあることや、安全対策や行事日程に関して改善の余地があることが分かった。今回の調査結果を冷静に分析したうえで、保護者の目線に合わせた、よりていねいな説明方法の工夫が期待される。

法人では、園の運営に関して必要な情報の収集は施設長の役割としているが、本社が中心となって関連する法制度や業界の動向や社会・経済状況等に関する情報の収集を行い、その分析結果を毎月の施設長会議等を通じて職員に伝えている。施設長は市内の私立園長会に参加し、法令等に基づく都や市の制度対応等に関する情報を収集している。また、保護者との日常的なやり取りの中でニーズの把握に努めるとともに、法人全体として年1回実施するアンケートを通じて保護者の意向を集約し、保育の振り返りと継続的な改善に活用している。

法人のフォーマットに沿って単年度の事業計画書を作成しており、その最後に「3か年計画」として、当年度を含む3か年の各年度における具体的な目標を謳っている。ただし、事業計画において、重点課題に対する取り組みの達成度を測る指標の明示が必ずしも十分とは言えず、その結果、事業報告における総括がやや漠然とした内容にとどまっている。園の運営管理の仕組みにおいて、事業計画の役割や位置づけを明確にするとともに、付表を含む保育の全体的な計画との関連を整理し、必要な内容を改めて検討することが期待される。

昨年度の収支予算書は本社主導で編成しており、園の事業計画との関連に関して、施設長から明確な説明は聞かれなかった。法人では、年度の収支予算の作成において、今後、施設長が決定する範囲と権限を広げていく方向で検討を進めている。施設長に対する目標管理制度では、主に園全体の目標が設定され、半年ごとに達成状況を確認している。今後、事業所の目標と連鎖する形で職員一人ひとりの目標を設定する仕組みを整え、事業所全体の目標達成に対する職員の参画意識や責任感を高めることが期待される。

法人全体として独自の点検項目に沿って3か月ごとに内部監査を実施している他、職員一人ひとりが日常の子どもに適切に対応しているかを共通のチェック項目で自己点検する取り組みを年2回実施している。また、各園における書類の整備状況や日々の職員配置の状況等について、法令の要件を満たしているかを本社が一元的に管理する仕組みを整えている。基準を下回った場合にはPCの画面上でアラートが上がることになっているが、実際には是正が必要な状態を把握しきれていないケースも生じており、今後、何らかのサブシステムの整備が期待される。

利用契約時の重要事項説明の中で、虐待防止の措置として、速やかに行政の関係機関に連絡し、早期に子どもの保護及び保護者対応に当たることを謳っている。また、保育品質マニュアルの中で、保育士による虐待として、「子どもを呼び捨てにする」「交換条件を示す」など14項目の具体的な事例をあげて定義し、該当する行為があった場合は、保護者及び行政への報告を検討すると明記している。さらに年2回、職員会議において、権利擁護の観点から日常の保育を振り返る機会を設けている。子どもに対する権利侵害を許さない法人の強い姿勢がうかがえる。

法人全体として、地域の子育て家庭を対象に、園での制作活動や公園での集団遊びを親子で体験する中で、遊び方のヒントを学んだり、日頃の育児の悩み等を保育士に相談することでストレスの解消に役立ててもらう取り組みの展開を目指している。当園では、地域の親子が気軽に立ち寄れる居場所を目指して、園内の地域交流スペースでの調理体験や近隣の公園での青空保育等を実施している。昨年度は子育て支援事業全体で延べ1348人の地域の親子が参加し、活況を呈している。

保育中の子どものケガや事故、感染症の発生の他、園運営における法令違反や職員の離職を重大なリスクと位置づけ、その防止に向けて、法人本部を中心とするコンプライアンス体制の整備や職員の意向を踏まえた研修の機会の提供、職員同士の自主的な学び合いの支援等に力を入れている。また、感染症予防のための衛生管理に努め、流行のシーズンを迎える前に衛生用品一式を用意し、それを使った汚物処理の実演研修を毎年実施している。今後、大規模災害発生時の対応や事業の継続に向けた具体的な対策を関係者・関係機関とともに検討することが期待される。

子どもが自然体験を始めとする様々な経験を通じて自分で考え、行動する力を育成することを法人の保育理念に掲げる一方で、活動中の事故や子どものけがを防止するため、事故あるいは事故に至る恐れのある状況等に関して、その当事者となった職員が書面にまとめて報告し、毎月の職員会議や日々のミーティングで情報共有を図るなど、安全管理に力を入れている。また、日常の保育環境に潜む危険に対するアンテナを高めるための職員研修の実施や、職員向けた法人の通信に法人内外の事業所で実際に起きた事故事例を掲載するなど啓発に努めている。

利用契約を結ぶ時点で、利用者から預かる個人情報の使用目的や使用の条件等を文書で提示し、保護者の同意を求めている。職務上、利用者の個人情報を知り得る立場にある職員や実習生には、退職後または実習終了後も外部に漏らさないことを誓約した文書への署名・提出を義務付けている。また、事務室内に鍵付き保管庫を設置し、個人情報を含む書類を分類・整理して保管している。組織内で共有することを目的に収集・蓄積している情報は法人のルールに従ってファイリングし、パソコン内またはキャビネットの所定の場所に保管して、職員に周知している。

職員の確保と定着を最重要課題に据え、保育士に関しては新規学卒者の定期採用を軸に本社が一括して募集をおこなっている。求人難の折り、職員からの紹介制度を導入している。選考に際しては法人理念に対する共感を重視し、職員に期待する人材像や共通のミッション等を明示して入職時に説明している。当事業所では開設3年目の今年度から施設長が交代した。若い職員が多い中で、失敗を恐れず、仲間とともに伸び伸びと仕事をする中で専門職としての能力を高めていくことを重視する姿勢を打ち出し、職員集団のモチベーションを高めている。

法人全体の人事制度において、職員に期待する能力やマインドについて、定着の度合いを所定の項目ごとに評価し、その結果を集計して昇給や賞与、昇格等に反映している。また、全社的な業務改善のプロジェクトに職員の主体的な参加を呼びかけ、現場からのアイデアや提案を積極的に取り入れるなど、職員のモチベーションの向上に取り組んでいる。当事業所では職員間の情報共有と職種間の連携に加え、職員同士が相互に気づきを伝え合い、指摘し合える関係性を高めることで組織力のさらなる強化を図ることを重点目標の一つに掲げ、取り組みを進めている。

施設長が年2回、職員との個別面接を通じて半年間の職務を振り返り、達成状況を評価したうえで、各人の課題や目標のすり合わせをおこなっている。また、法人として階層別の研修制度を整備し、職員一人ひとりの学習ニーズを踏まえて、個別の目標と連動する形で外部研修を案内している。当園では、毎月の職員会議における園内研修の実施に加え、法人内のエリア研修や保育のスキルアップを目指す自己啓発研修、市が主催する研修等に職員が参加して、学びを共有している。今後、職員の専門性の向上を図るためのより発展的な取り組みが期待される。

グループ全体のホームページを通じて、共通の保育理念や方針、保育目標等を案内している。系列園での子どもの実際の活動や生活の場面を撮影した動画や写真画像を使うほか、必要に応じて英語及び中国語の表記への切り替えを可能とするなど、ユーザーの多様なニーズに配慮している。ホームページの問い合わせフォームから利用希望の園を指定して資料請求や見学希望のオーダーを送ることもできる。昨年度リニューアルしたホームページの内容に関し、保護者の感想や意見等を集約して、さらなる充実に活かしていくことが期待される。

見学の問い合わせは電話等で随時受け付け、都合の合う日程を調整したうえで、施設長または主任保育士、事務職員が当日の案内を担当している。なるべく子どもたちの生活や活動の様子を見てもらうように時間を調整のうえ、パンフレットに沿って法人が目指す保育の理念やその実現に向けて力を入れている取り組み等を中心に説明している。パンフレットには写真画像が多く取り込まれ、子どもたちの生き生きした姿を伝えるレイアウトの工夫が見られる。法人では、すべての職員が自分の言葉で保育の理念等を説明できるようになることを目標に掲げている。

利用契約の際に書面による重要事項等の説明と契約書類の取り交わしを行うとともに、保護者から保育に必要な情報の提供を受けている。子どもの食物アレルギーや健康状態を含め、子どもや家庭の状況について、専用のアプリまたは所定の書面を通じて提供された情報をもとに、施設長が保護者との個別面談をおこなっている。また、保護者が育児において気になっていることや保育に対する要望等を確認し、統一した記録用紙に記入して、職員間で情報を共有している。

新入園の乳児には、なるべく特定の保育士が関わるようにし、子どもとの愛着関係を築く中で園の生活に慣れるよう配慮している。慣れ保育は必須とはしておらず、保護者の状況や要望に応じて対応している。標準的には1週間から10日程度かけて段階的に保育時間を延ばしている。法人全体として迎えの際にその日の子どもの様子を保護者にていねいに伝える取り組みに力を入れている。連絡帳に代わるスマホアプリを介した双方向の連絡ツールの活用により、保護者が子どもの園での様子を携帯端末で確認できることで安心感につながっている。

年長クラスの子どもが卒園する際は個別の指導要録を作成して就学先の小学校に提供している。必要に応じて小学校に出向き、あるいは電話で子どもの状況について個別の引継ぎをおこなっている。途中での転園等の場合、状況に応じて子どもに対する個別の配慮事項等を所定の様式に記述し、保護者の同意のもとで転園先に情報提供する仕組みを法人として整えている。

法人本部より毎年2月初めに次年度の全体的な計画と年間指導計画のひな型が各園に配信され、園の職員会議で当年度の振り返りをもとに次年度の計画を検討、作成する流れが明示されている。各クラスで月間及び週間の保育計画を作成のうえ、0～2歳児クラスと3～5歳児クラスのそれぞれのグループごとの会議で調整や見直しをおこなっている。法人の方針のもと、異年齢の子どもたちの育ち合いを保育の基本に据える中、日常の保育はクラスの垣根を超えて展開されており、今後は異年齢保育の計画作成等により、さらなる連携の強化を図ることが期待される。

各クラスの月間指導計画を踏まえて個別の月案または週・日案を作成し、日々の保育記録をもとに振り返りを行い、次期の計画につなげる仕組みを整えている。また、毎月すべての子どもの発達状況を児童票の項目に沿ってチェックし、子どもの姿の変化等を個別に記録している。法人の方針のもと、保護者からの開示請求を前提に、記録の質の向上を目指して法人全体の研修等でスキルアップに取り組んでいる。今後、個々の保育のねらいと実際の生活の場でのずれなどを確認しながら細やかに記録し、子どもの成長を促す保育につなげていくことが期待される。

0・１・2歳児の乳児クラスには年齢ごとの担任を置く一方で、法人では3～5歳児の幼児クラスに関しては異年齢保育を基本として年齢ごとの担任は置かない方針としている。子どもの午睡時間中に乳児の各クラス及び幼児グループの会議をそれぞれ週1回開き、週間・月間指導計画の振り返りや検討、子ども及び家庭の状況の確認・共有等をおこなっている。また、月1回のリーダー以上の役職者による会議で、全体にかかる問題の把握や検討をおこなっている。

0～5歳児が共に暮らし、頼りたい相手・遊びたい相手・遊びたい場所を子ども自らが選択し、行動できるようにするための「ゾーン保育」を実施している。縁側のある1階とテラスのある2階の園舎全体と、築山のある園庭を使って、さまざまな遊びのコーナーを設け、子どもたちは自由に行き来している。午前中は、朝のリズム体操や歌、1分間の座禅、雑巾がけ等の後は散歩を日課にしているが、今年度からは、子どもの主体性を何より尊重し、散歩、園庭遊び、室内遊びの中から子ども自らが活動を選択できるよう支援している。

すべての子どもが分け隔てなく一緒に頼り合い、ぶつかり合い、教え合うインクルーシブ保育を目指している。観察調査の日の朝のリズム体操の時間には、全員の子どもが1階の幼児室に集まり、保育士の弾く電子ピアノの曲に合わせて、主にクラス単位で隊形を変えながら元気よく体を動かしていた。気の向いた時だけ加わる子や保育士にべったりの子もいたが、子どもの気持ちを尊重し、無理なくその場にいられるよう配慮している。0～2歳児については毎月、年齢に応じて設定した項目に沿って発達段階を確認し、愛着形成と個々の発達支援をおこなっている。

小学校教育への円滑な接続に関しては、要録を作成して進学先の小学校と共有するほか、希望する保護者に対しては、市作成の就学支援シートを用いて、子どもの行動の特徴や人との関わり、引き継ぎ事項等を小学校と共有している。年間を通して幼・保・小地区連絡会に園長等が参加して連携するほか、近隣小学校の1年生や5年生との交流も実施している。小学校の学習への準備として、5歳児を中心に、子ども一人ひとりのペースに合わせた学習や、発達段階に合わせた体操指導、鍵盤ハーモニカ等の指導の時間を、週1回それぞれ30分設けている。

保護者とは、専用アプリの連絡帳機能を使って、子どもの様子や健康状態等を共有している。乳児については、体温、体調、睡眠、食事等について、登園までに保護者が入力して送信する。園からは体温、午睡、トイレ、授乳の回数・量、オムツ等について、主に子どもの午睡中に入力して送信する。そのため保護者は園に迎えに来る前に、その日の子どもの様子を知ることができる。そのほかに、タイムライン機能を用いて子どもの活動の様子を順次投稿し、保護者と共有している。

降園時はお迎えの保護者で混雑する日も多いため、口頭での保育内容を共有するとともに、子どもの様子を臨場感のある写真を専用アプリで配信するなど、視覚的にわかりやすいよう工夫している。基本的な生活習慣の一つである食に関して、0歳児については、調理員は毎週保護者と連絡を取り合い、子ども一人ひとりの状況に応じて、離乳食を進めている。新しい食材はまずは家庭で試すこととしており、園の献立に応じて、無理なく家庭で試せるよう、調理員は保護者に声をかけている。

1歳児は、朝の水分補給の前と散歩後、午睡明け、夕方の4回、保育士が一人ひとりに声をかけて、行きたい子どもがトイレに行く。トイレに行けたらシールを貼り、意欲を高めるようにしている。0、1歳児の午睡に関しては、睡眠開始以降5分おきに生存を確認し、その様子は専用アプリを通じて、保護者はオンタイムで確認できる。5歳児は、10月の運動会以降は午睡をせず、「5歳児だけの時間」を設けている。個々のペースに合わせた学習や、発達段階に合わせた体操、鍵盤ハーモニカの練習、机上遊び等を通して、小学校への準備と意欲を高めている。

「にんげん力」を身につけるために必要な遊び・野外体験を提案実践し“自分で考え、行動する思考”を育むことを理念として掲げ、「ゾーン保育」を実施する中で、子どもの自主性、自発性を尊重し、遊びこめる時間と空間を配慮するようにしている。観察調査の日は雨で、2階に低年齢向けの運動、粘土遊び、休息、1階にルールのある遊び、組み立て遊び、おままごと、お絵描き等のコーナーが設けられ、各コーナーには保育士が付き、子どもたちは自分のやりたいコーナーに自由に移動して遊んでいた。廊下や縁側で好きな遊びを続ける子どもの姿もあった。

園庭には土の山が設けられており、穴を掘ったり水を流したり、泥んこ遊びをしたり、子どもの発想で自由に遊べるようになっている。泥んこになった体や服、靴は、幼児は自分でたらいで洗う。木登りできる木も用意されている。利用者アンケートにおいては、園での活動は子どもの心身の発達に役立っていると思うか、子どもが興味や関心を持っておこなえる活動か、という両設問において、9割を超える保護者が「はい」と回答しており、体を動かして遊ぶ保育内容に保護者はおおむね満足している。

表現活動としては、リズム体操や、普段の遊びの中で自由に描いたり、作ったりできるコーナーを設けるほか、季節に応じた制作活動もおこなっている。5歳児クラスでは、話し合う機会を設ける等して、遊びに関するルールは、子ども自身が決めるように支援している。大人は子どもの選択を尊重し、最後まで見届けることを、園の今年度の行動規範の一つと掲げている。実際、観察調査の日に、おままごと遊びのコーナーで、気持ちの整理の付かない子どもの言い分を聞き、じっと見守り、自ら仲直りできるよう支援する保育士の姿があった。

園の年間行事は、子どもに体験させたいことを保育士が企画・提案する法人独自のプロポーザル制度により決定している。毎年ボディペインティングやどろんこ祭り、泥プール、焼き芋大会、相撲大会など多くの行事をおこなっているが、今年度は初めて11月に芋煮会を実施した。年間を通した農業計画の中で、子ども達が春に土づくりから始め、里芋を植え付け、秋に収穫した。当日は、保護者に加えて地域の方々も参加した。

7月のどろんこ祭りは、保護者も一緒になって楽しめる夏祭りで、ゲームや制作のコーナーや、調理員が作ったカレーと飲み物のコーナー等があった。見学を兼ねて参加する地域の方もいた。2月の生活発表会は、子どもの発想や発案を基に内容を組み立てている。例えば2歳児は、リズム体操の中で子どもたちが気に入ったフレーズを用いたリズム遊びを披露する。5歳児は、担任が読み聞かせた小説を劇にすることを、子どもたちの話し合いで決めた。準備の段階から、子どもが主体的に関心を持って行事に取り組めるように支援している。

行事の後には、専用アプリで保護者にアンケートを実施し、次年度の計画に活かしている。今年度の行事については、会場の都合で運動会の日程が変更されたため、利用者アンケートの行事の日程は参加しやすいように十分な配慮がされているか、という問いに「はい」と答えた保護者は5割程度になっている。一方、平日の夜に開催される懇談会の日時について、肯定的な意見もある。園は今後、早めの計画・立案で、余裕をもって準備を進めて、保護者の理解や協力を得たいと考えている。

開園時間は7時～20時で、2階で遊んでいる子どもたちは18時前に1階に下りる。保護者のお迎えは17時半頃からが多いが、18時以降も20人以上の子どもが毎日残っている。園舎1階の幼児クラスの保育室はオープンな造りのため、子どもの数が次第に減ってくると、残っている子どもが寂しく感じてしまうことがある。事務室を活用したり、お手伝いを頼む等して、子どもが寂しさを感じないような工夫をしている。今後は、できるだけ人と人の距離が近づくよう、1階の絵本コーナーを安心できる空間として活用すること等を検討している。

0～5歳児が共に暮らし、遊びたい相手や遊びたい場所を子ども自らが選択し、行動できるようにするための「ゾーン保育」においては、延長保育の時間も、保育形態に大きな変化はない。園庭で遊んでいる子どもたちは、日没までに室内に入ることになっている。お迎えが19時半を過ぎる場合は、希望により19時に夕食を提供している。夕食も手作りの温かいものを提供するほか、人数が1、2人の時は、2階の比較的小さな一時保育室を利用する等して、落ち着ける空間を作るようにしている。

幼児クラスでは、天気の悪い日以外は毎日、縁側にテーブルと椅子を出して昼食とおやつを食べている。保育士・施設長をはじめ、すべての職員がどこかのテーブルに加わり、子どもと一緒に同じものを食べる。子どもは、一緒に食べたい子どものところに行ったりして、座る位置は毎回自分で選んでいる。調理員が見守る前で子どもは一皿ずつ、食べられる分量を盛り付けて、テーブルに運んで食べ始める。食べ終わると三々五々、自分で食器を片付け、水場の近くで歯磨きを始める。おかわりは2回まで自由で、観察調査の日には、モリモリ食べる様子が見られた。

調理員も子どもたちと一緒に食べることで、子どもたちの喫食状況や評判を体感するほか、食材の組み合わせや調理のしやすさ等について毎月振り返り、献立を作成している法人のレシピチームに報告している。2週間毎のサイクルメニューのため、1周目の評判を2周目に活かすようにしている。アレルギーのある子どもの席は固定制とし、顔写真付きの専用トレイを用いて、除去食を提供している。利用者アンケートによれば、食事やおやつは子どもの状態に配慮し、工夫されたものになっているか、という問いに、9割近い保護者が「はい」と答えている。

食について関心を高めるための取り組みの一つとして、子どもたちが種や苗から野菜を育て、収穫した野菜を給食に利用したり、野菜の下ごしらえを子どもたちがおこなったりしている。春には田植え、秋には稲刈りも体験している。月1回、食育活動を計画し、今年度は5月に、届いた梅で梅干しやジュースを作り、夏には収穫したトマトでケチャップを作り、秋にはみそを作った。食育活動は、1歳児クラス以上の子どもたちが、発達段階に応じて取り組んでいる。保護者に向けては毎月、食に関する豆知識を盛り込んだ食育だよりを配付している。

病気やけがの予防・防止に関しては、子どもたちに対して看護師が、手洗い指導をおこなっている。毎月のお楽しみ会の中で、手洗いの大切さを紙芝居で子どもたちに知らせたこともある。歯磨きについては、2歳児以上の子どもたちを対象に、看護師が指導している。午睡時の生存確認に関しては、「ブレスチェックの４つの項目」と題したポスターが乳児室に掲示され、5分おきにチェックしている。体調が気になる子どもについては、午睡時に各クラスの担任と情報を共有している。医療的なケアが必要な子どもは現在在籍していないが、受け入れる用意はある。

足指で地面をとらえる力を育て、歩く、走る、跳ぶ、飛び降りる、よじ登る、横や後ろに動くことができるようにし、運動感覚を育てることを目的に、全クラスで裸足保育を実施している。与薬に関しては、登園時に与薬依頼票と薬、薬剤情報提供書を保護者から受け取り、与薬ポケットで一括管理している。与薬後は、与薬完了ポケットに移し、降園時に保護者に返している。保育中にけがや疾病で受診が必要と思われる場合は、法人の指示を受けてから園が子どもを医療機関に連れて行く。発熱の場合同様、保護者に連絡は入れるが、すぐのお迎えを要請はしない。

保護者と協働して子育てする、という運営理念の下、できる限り保護者の負担を軽減するよう、保護者が準備する持ち物は極力少なくし、オムツはパック単位で預かり、職員が記名して使用する。急な発熱等の際、連絡は入れるが、急なお迎えは要請しない。残業等でお迎えが急に遅くなる連絡が入れば、対応している。当日でも16時までに連絡を入れれば、夕食の追加予約ができる。利用者アンケートによれば、急な残業などで予め取り決めた利用時間を変更する必要がある場合、柔軟に対応してくれるか、という問いに、9割近い保護者が「はい」と答えている。

保護者懇談会は乳児・幼児クラスに分けてそれぞれ年2回、平日の18時～19時に実施し、約9割の保護者が出席した。子どもたちの生活の様子や発達段階が手に取るようにわかる、写真をふんだんに用いた冊子を全保護者に配付した。すべてのクラスの子どもの発達の様子がわかる冊子にすることで、保護者が自身の子どもの発達に見通しを持てるようにすることもねらいの一つとした。クラス毎に現段階の子どもの発達に応じた目標を明示するほか、制作や絵画における発達について、実際の絵の写真を載せて、変化が見て取れるような工夫もされている。

個別面談は、5歳児については2、3月に実施する。他のクラスについては、随時、希望者を中心に面談している。面談後は、相談の内容と当面の対応、その後の支援経過を記録している。保育参加は、前日までの申し込みによりいつでも受け入れている。午前中から子どもと一緒に遊んで昼食を食べる保護者が多い。任意で園の行事等に協力する保護者を、園では「どろんこサポーターズ」と呼び、どろんこ祭りで役割を担ってもらった。園庭の築山を高くするための土の搬入等、応援の必要な際はその都度保護者に声をかけ、サポーターズを中心に協力を得ている。

毎日の散歩や戸外活動のほかに、地域との交流や、さまざまな仕事を目にし、大人と目を見て話すことを目的に、商店街ツアーと題した活動を毎週実施し、子どもたちは地域の小売店やスーパーマーケット、消防署や郵便局等を訪れている。保育士がより保護者に近い存在になるために、月1回、契約している銭湯に幼児と出掛け、保育士は子どもと裸の付き合いをしている。幼児は老人ホームを定期的に訪問し、歌を披露する等して、入居者と交流している。年1回、職業体験の中学生を受け入れ、交流している。

どろんこ祭りや芋煮会等の行事は、近隣にポスターを貼って参加を呼び掛けた。子育て支援事業として、毎日園を開放し、子育て相談にも応じている。週3回、園の一室を地域の親子の居場所として開放し、希望する親子は、園児と一緒に遊んでいる。毎週水曜日には、親子で簡単クッキングが楽しめる企画が用意され、各回ともすぐに定員に達している。ほかに制作や外遊び等もおこなわれている。月1回、近隣の公園で、紙芝居や絵本を読み聞かせる等の青空保育も実施している。昨年度はこれらの事業に、合わせて延べ1348人が参加した。

利用契約の際に、利用者の個人情報の使用目的や使用方法等について書面で説明し、保護者の署名をもって同意の意思を確認している。必要に応じて療育機関や医療機関等に個人情報の外部提供を行う際は、その都度、保護者の意思確認をおこなっている。また、園の毎月の通信等には子どもたちの日常の活動の様子を生き生きと伝えるために写真を多用しており、その際は顔写真のアップは避けるとともに、保護者より使用の承諾を受けている。法人として個人情報の保護に関するマニュアルを整備するとともに職員に対する研修を行い、周知に努めている。

法人として、子どもの人格を尊重し、子どもが自分でできることを見守る姿勢を重視しており、人権擁護の観点から、職員一人ひとりが日頃より子どもに適切に対応しているかを法人共通のチェック項目で自己点検する取り組みを年2回実施している。今回の観察調査においては、子どもに対する職員の接し方は全体として抑制的で、子どもに強い調子で指示をしたり、職員の声が響き渡るような場面はほとんど見受けられなかった。

登園時間はある程度決められているものの、保護者の就労や家庭の状況等に応じて、柔軟に対応している。家庭での子どもの養育環境が気になる場合は、担任からの報告を受けて施設長が保護者に声を掛け、相談に応じるとともに、必要に応じて法人役員に報告のうえ、関係機関と連携して対応する体制を整えている。また、法人全体の地域貢献の取り組みとして、園の玄関にはサイズが合わずに着られなくなった子ども服を保護者や近隣住民が置いていき、そこから欲しい服を誰でも自由に持っていける「勝手籠」と称するバスケットを設置している。

法人として保育サービスの分野で国際的な品質管理の基準に沿った取り組みを継続的に行い、専門の認証機関による定期的な審査を受けている。また、所定の研修を受けた社員が法人の定める点検表に沿って毎年内部監査を行い、その結果を各事業所にフィードバックして、振り返りの材料としている。点検表には300以上の項目ごとに確認の方法が具体的に示されており、業務の標準化に対する法人の強い姿勢がうかがえる。今後、保育所保育指針や関係法令の改定を踏まえた用語や内容の見直しを継続的に図ることが期待される。

法人の定める保育品質マニュアルは、衛生管理、感染症、危機管理、虐待対応、苦情対応、保健計画、食育計画、給食提供の各領域で構成されており、入職時に正職員全員に冊子が配布されている。各自必要なページにインデックスをつけて素早く確認できるようするなど、工夫しながら活用している。また、緊急時の対応や通報のフローチャートを電話の近くに掲示している他、アドレナリン自己注射薬の練習キットを使った研修や園内に備え置かれた衛生用品の一式を使用した嘔吐物処理の実演訓練等を行い、職員が落ち着いて対応できるように努めている。

法人として現場の職員の前向きな意見やアイデアを大切にし、それらを積極的に取り入れて体験学習の企画や職員研修の内容に活かしている。保育品質マニュアルを毎年見直す過程においても、現場の意見を集約して改定につなげる仕組みを整えている。今後は法人全体で年1回、園ごとに実施する保護者アンケートの集計結果についてもマニュアルを見直す際の材料に活用することが期待される。また、相当な分量のある保育品質マニュアルについて、その内容が細部にわたって現場に周知されているかを点検し、現状の把握につなげることが望まれる。