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平成27年度介護保険法改正に向けて 第3回 平成27年度介護報酬改定の方向について

4 おわりに

  •  今回の介護報酬の減額改定について、多くの事業所はきわめて厳しい内容と受け止めているのではないでしょうか。
  •  事業体である以上、収支が赤字継続では倒産に至るし、経営者として失格です。なんとしても黒字、せめてとんとんとなるためには、固定経費の大きな部分の人件費の抑制、具体的には、非常勤職員の採用拡大や、賞与等の抑制、高齢者の雇用等により、黒字を出す努力をしています。
  •  それらにより、介護職場の低賃金が一般化・定着し、従事者の確保の困難さにつながっています。そのような内容を抜きに一般産業界との比較では低賃金であることが言われているにもかかわらず、単に黒字であることをもって、減額改定されるのはきついと思われます。
  •  また、要介護認定者数と介護保険費用の伸び率の関係についてみると、両者の伸び率がパラレルとなっています。

    (単位:費用は兆円 認定者数は万人) 介護保険費用と要介護認定者数 (厚生労働省HP「介護保険制度を取り巻く状況」「介護保険事業状況報告 月報」を基に表作成)

  •  AとBの関係をグラフにすると、次の通り、認定者数の伸びと同じように、総事業費も伸びており、どちらか片方が突出することがないままに推移しています。
  •  A/Bの年度別比較は下図のとおりです。

    総事業費と認定者数の年度別比較

  •  この関係で言えば、今後後期高齢者の増加に伴い、要介護認定率は一般的に高まります。また、要介護度が重度になれば、利用するサービス量・費用も増加傾向にあり、一人当たりの単価も高くなります。
  •  後期高齢者が増加する中で、社会保障費全体で見れば、「医療から介護へ、施設から在宅へ」の流れは、介護関連費用の伸びを押さえるのに役立ちます。また、介護予防の徹底やリハビリテーションの活用等により、社会とつながりを持てる元気な高齢者が増えたり、元気な高齢者とともにサロン等をつくる活動ができたりすれば、社会保障費の節約になると同時に、高齢者自身のQOLの向上にも寄与できます。
  •  このように考えれば、高齢者の生き方の問題として、福祉系の訪問介護や通所介護を介護保険本体給付から切り離し地域支援事業に移行することで、高齢者の社会参加を促し、一種の新しい地域づくりとも言える介護予防・日常生活支援総合事業への高齢者の参加が、高齢者のQOL向上に有効となる可能性は大いにあります。これは一種の新しい地域づくりといえます。問題は、それが実現できるか否かです。それには市町村による創意工夫の取組が不可欠となります。
  •  その一方、制度の持続可能性の観点からの見直しは、1980年代前半から言われ続け、現在まで続いています。1980年代前後の第一次・第二次石油危機後、国債等残高が100兆円に迫るなか制度そのもの見直しとともに、土光臨調により国と地方の財源の負担割合の見直しが行われ、在宅重視、市町村中心の考え方のもと、やがて医療保険の一部と老人福祉サービス等を統合した社会保険制度としての介護保険制度の創設へとつながっていきます。
  •  制度の見直しに当たっては、常に財政の危機が叫ばれ、制度の存続の危機が言われています。その見直しにより財政危機が回避され、制度が充実したかと言えば、見直しを行いつつ国債残高は積み上がっています。今後、見直しにより財政危機が回避され、制度の持続可能性が十分保障されるのか、どこまで見直せば良いのか等が十分に説明されないまま、サービス見直しや報酬の切り下げが行われ、介護現場の低賃金構造が定着してしまうとすれば、それは国民にとっても、国家にとっても不幸なことではないでしょうか。この間、1980年代に100兆円台だった国債残高は、今や1000兆円に迫ろうとしています。財政危機の中での制度の持続可能性とは何なのかも、制度改正内容の各論と併せ制度そのもののあり方として問われています。

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