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介護保険の動向と実際例 第4回 地域包括ケアシステムの構築に向けて(その2)

3.地域包括ケアシステムの構築に向けて

 前々回(第2回)の特集の3で述べたような準備作業を保険者が具体化する中で、新たな課題が生じてきます。
 また、事業者にとっても、地域包括ケアシステムの構築に向けた制度改正による「事業への影響」を踏まえた対応が必要になります。特に要支援サービスから外れる「訪問介護」「通所介護」の影響。これまで要支援者へ予防給付を提供していた事業者からすれば、それらが廃止されることでどのような影響が生じるのか、事業経営の見直しが必要になるか、今後どのような方向で展開していくのか等が課題になります。
 さて、第2回の特集では、A市の事例として、保険者の課題と業務項目の一覧を紹介しました(平成25年9月現在の進捗状況)。以下はその後に実施された地域ケア会議の状況と新たに発見された課題です。

1 地域ケア会議の実施の事前準備

 地域の実態把握やケアマネジャーを対象としたスキルアップのための座学・演習の実施と並行し、新たな取り組みとして「地域ケア会議」が開始されました。その開始に当たっての課題整理と開催した後の振り返りが重要になります。
 まず、開始に当たっては、1ケースの選定、2利用者への承諾、3参加者の範囲、4参加者への守秘義務、5使用する様式等、6件数及び時間、7その他、について事前検討を行いました。とりあえず、着実にできるところから一歩一歩進めることにしました。

  1.  ケースの選定
    当面の間、要支援ケースを取り扱う。
  2.  利用者の承諾
    ケアマネジャーが利用者に伝えて承諾を得ておく。
  3.  参加者の範囲
    当面は、地域包括ケアセンターの職員、ケアマネジャー、関連する事業所、社会福祉協議会、アドバイザーとし、参加者の範囲をどこまで広げるかは、今後の課題とする。
  4.  参加者への守秘義務
    ケアマネジメントのプロセスでの個人情報の利用については、ケアマネジャーが開始時に利用者やその家族から文書で「個人情報利用の同意」を得ることとしている。また事業所の従事者についても、個々の事業所で「守秘義務の遵守」について文書等で確認しているが、今回は地域ケア会議の各参加者からも、地域ケア会議での情報に関する「守秘義務の同意」について文書により同意を得ることにした。
  5.  使用する様式等
    当面、簡単な様式を用意し、その様式に記載したものを利用することにして、ケアプランの様式については使用しないこととした。また、その際、このケースの課題はなにかについて、ケアマネジャーが様式に記載しておくこととした。
  6.  件数及び時間
    開催時間を2時間として、1ケース30分を目標としたが、初回は1ケース60分の時間を確保した。
  7.  その他
    1.  地域の社会資源情報
       地域の社会資源情報について、地域包括ケアセンターが取りまとめ、当日の資料として配布した。
    2.  会議使用資料は、参加者には当日に配布し、会議終了後は全て回収した。
    3.  地域ケア会議とサービス担当者会議との関係の整理についての意見交換を行った。
    4.  地域ケア会議の開催頻度
       当面隔週とし、開催されない週は振り返りを行い、改善点を検討している。

等により第1回の地域ケア会議を開催しました。

2 地域ケア会議の実施と振り返り

 第1回目の地域ケア会議は、上記の準備を経て実施されました。実際行ってみると次のような問題が発生しました。

  1.  使用様式
    ケアプランの様式を使用しないで、別の様式に概略等を記載してもらって会議に使用したが、利用者に関する情報が十分でなく、ケースの検討をする参加者が利用者状況を把握するのに支障が生じた。このため、次回以降は利用者の直近のケアプラン(第1表、第2表、第3表)の添付をすることとした。これにより情報量は増える見込みである。残る問題は、帳票への記載内容・視点についてである。
  2.  利用者についての情報
    1.  3とも関連するが、地域での暮らしをイメージするための「利用者情報」や医師の意見情報等が不足していた。その理由の一つは、ケアプラン様式を使用しなかったことによるが、医師の意見については、ケースによっては必要と思われる医師からの情報が得られていなかった。
       その要因として、医師との連携の問題があるが、一方では、病状の把握(現状と今後の見込み)がなくても、介護予防プランが出来てしまうことにあると考えられる。これはケアプラン全体にも通じることではあるが…。
       医療情報の医療・介護連携そのものについて、今後に大きな課題が残った。
    2.  また、家族の状況については十分な把握が行われていなかった。要介護(支援)者との関わりにおいて、家族の生活がどう変わったのか、ストレスはどうか等についての把握は、要介護者等が在宅での生活を続けるためには必要であるが、そのことについての視点が弱かった。
    3.  今回検討した要支援者の一事例について見てみると、週2回の通所介護と週1回のヘルパー(買い物)を利用していることについては、通所介護(作業療法士による機能訓練及び交流)及び買い物代行の必要性は了解された。しかし、平成27年度から予防給付が介護サービスの対象外となったときのその対応、あるいは代替についてその時点での具体案はなかった。別の市では、平成27年度からといっても3年以内に移行すればいいのだから、何とかなるのでは等の意見も出ているようであるが、今、方向性が見いだせないとすれば3年後までに見いだせる保障はない。
    4.  ウに関して3年後、訪問介護を含む生活支援サービスについて、自治会やボランティア、住民の任意組織、NPOあるいは介護予防事業者が実施するとされているが、高齢者全体の数%に対応する受け入れ先等の確保は、並大抵なことではない。
  3.  地域ケア会議の司会(ファシリテーター)の問題
    ケースによって、司会者の交替を行ったが、司会者の個性が会議の運営に反映される。これは他の地域ケア会議を実施している市町村においても確認されているようであるが、今後対応すべき課題の一つと思われた。
  4.  地域ケア会議とサービス担当者会議の関係
    地域ケア会議の先行市の例としては、サービス担当者会議の開催の有無にかかわらず地域ケア会議を開催している市町村も多い。とりあえず、「基本的にサービスの利用は利用者の選択を基本とする制度設計であること」及び「サービス担当者会議に利用者や家族も出席してケアプランを作成するケアマネジメントのしくみなので、地域ケア会議の結果について、サービス担当者会議に提案する」ということで整理された。この点は、地域ケア会議の義務化の中で議論されるべきことでもある。
  5.  ケースの選定
    ケースの選定は、サービス担当者会議との関係を考慮し、サービス担当者会議開催前の事例であることを前提とし、地域包括支援センターからは要支援の事例を、また居宅介護支援事業所からは重度者を含むものの中で検討したい事例を選定することとした。 これらも今後、地域ケア会議を進めていく中で段々と整理されていくのではと思われる。
  6.  その他
    その他としては、ケース検討を通じた地域課題や政策課題の発見、ネットワークの構築等があるが、始まったばかりのため、そこまで手が届いていない。

 以上のように、地域ケア会議を実際に始めると、様々な課題が出てきます。当初想定外の問題や避けていた問題にも直視せざるを得なくなります。逆に始めてみないと分からないようなご当地特有の課題も多い筈です。




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