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介護保険法の一部改正について

1 はじめに

  • 平成23年4月5日第177回通常国会に提出された「介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律(平成23年法律72号)」は6月15日可決成立し、6月22日に公布されました。この改正内容は、原則、平成24年度からの施行となります。
  • 介護保険改正案については、修正等はありませんでしたが、老人福祉法改正案のうち、「特別養護老人ホームの設置主体の見直し(社会医療法人による特養ホームの設置/老人福祉法第15条第四項関係)」については削除となりました。
  • また、衆議院・参議院において、改正法の実施にあたっての、附帯決議(法的な拘束力はない)が行われました(参考を参照)。
  • 附帯決議の内容は次の7項目です。   
    1~6が、衆議院の附帯決議として、参議院では、さらに7が加えられました。
     
 
  1. 介護職の喀痰吸引等の実施に関わること
  2. 介護職(特に看護職)等の平成24年度以降の処遇改善に関わること
  3. 介護サービスの情報提供に関わること
  4. 新サービス等の導入を踏まえた、地域包括支援センターの機能強化に関すること
  5. 介護予防・日常生活支援総合事業に関わること
  6. 介護療養型医療施設の廃止期限の延長に関わること
  7. 認知症対策の推進のため、地域での医療・介護等の緊密な連携、成年後見制度の周知・普及に関すること
 
     

2 介護保険法等の成立

  • 法律の成立を受け、厚生労働省は平成23年7月11日に、都道府県、政令指定都市、中核市等を対象に「第5期介護保険事業(支援)計画の策定について」の主管課長会議を開催(当日資料は厚生労働省のホームページで公表)しました。
    その中で
    1. 第5期事業計画中の第1号被保険者と第2号被保険者の負担割合は、21%と29%になること、その他第5期介護保険事業計画作成のための説明がありました。
    2. 事業者の方が関心のある指定基準等の提示については、年末前後と思われます。介護報酬の改定についても、診療報酬との同時改定が予想されており、早ければ12月過ぎの決着も考えられます。
    3. 関連して、介護職員処遇改善交付金(約4000億円/年)の継続については、介護職以外の職も対象に、看護職等に配慮をしつつ、介護報酬に組み込み、実施する方向のようです。
  • 今回の改正のポイントを再整理すると、次のとおりです。
    1. 方向性としての「地域包括ケアシステム」の構築のための取組み
    2. 地域の基盤を支える、サービス付き高齢者向け住宅の第5期介護保険事業計画への位置付け(国土交通省とのコラボレーション、施設のあり方の見直しも視野に)
    3. 24時間定時巡回・随時対応等の訪問介護看護サービス、複合型サービス等の創設
    4. 介護福祉士等による喀痰等の医的行為の一定条件下での許容
    5. 介護保険外の介護予防サービスと介護保険内の介護予防サービスをつなぐ、「介護予防・日常生活支援総合事業」の創設
  • また、今回の制度改正の要となる地域包括ケアの主要な取組は、次のとおりです。
    1. 24時間訪問介護・看護、リハビリテーション、痰吸引等医療との連携の強化
    2. 介護サービスの充実強化
    3. できる限り要介護とならないための予防の推進
    4. 見守り、配食、買い物など、多様な生活支援サービスの確保や権利擁護等
    5. 高齢期になっても住み続けることのできる高齢者の住まいの整備(国土交通省連携)

    特に下線の部分が今回改正の目玉です。一部には今回の改正は小幅改正との見方がありますが、質の転換という意味では大きな改正です。換言すれば、まず、社会を支えるシステムとして公的サービスと助け合い等の私的なサービスの組み合わせを前提としたこと(参加型社会保障への社会保障定義の転換)、次に介護の分野での医療の役割の重視、最後に施設と在宅という対立軸を、サービス付き住宅の整備を入れることで解消したいという方向性等を打ち出したことと思われます。


    問題は、理念としての方向性がステークホルダーとの関係を整理して、実体化できるかということです。社会福祉は現実が問題なので、現実抜きの理論は空論以上の弊害をもたらしかねません。