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苦情対応の事例 苦情対応

苦情事例2知的障害者の入所施設の職員から虐待の告発があった
(苦情調整委員会型)

相談内容

申出者 ---- 職員
サービス種別 ---- 障害者支援施設
本人状況 ---- 複数の知的障害者

知的障害者の入所施設において、職員が利用者の半裸の動画を撮影し他の職員に送信したり、行動障害のある利用者を力づくでねじ伏せる等の不適切な行為が日常的に行われている。内部で改善を図るように声を上げたが、なんの対応もなされず放置されているので、やむを得ず委員会に匿名で相談した。

対応

職員からの電話での相談を受け、施設において複数の職員による不適切な行為があるものの、利用者がケガをするような一刻を争うまでの事態ではないことをまず確認した。その上で、行われているという行為が事実なら明らかに虐待にあたるため、発見者には区市町村に通報する義務があることを説明した(障害者虐待防止法16条1項)。申出人は、機関に対しては名前も連絡先も明かしたものの、事業所にはもちろん地元の行政にも名前を明かしたくないと希望した。そのため、機関が申出人に代わって相談内容を市の障害者虐待防止センターに報告し、対応を協議することを申出入に説明し、同意を得た。 事務局では、その後直ちに市虐待防止センターに連絡し、対応を協議した。
その結果、申出人が現職の職員であり匿名を希望していることから、行政機関が表立って動くよりも、苦情対応機関が苦情申出の事実を秘した上で、「巡回訪問」の名目で調査に入ることとした。事務局は以上のやりとりを直近の委員会において報告し、巡回訪問調査として実施するとの方針を確認した上で、担当委員を決定した。担当委員としては、事案の重大性と巡回訪問調査の限界に配慮し、弁護士と社会福祉系の大学教授の2名が指名された。
通常の苦情対応の手順では、担当委員が直接申出人に会って具体的な苦情の内容等を確認することが原則だが、本件では申出人の匿名性に配慮し、委員の指示を受けた事務局が申出人に連絡を取り、確認すべき事項やその後の施設における状況等を繰り返し聴取した。
一方で、当該施設に対して事務局が連絡を取り、(個別の苦情に対する調査ではなく)一般的な巡回訪問として、事業所における苦情対応の取組状況等を確認したい旨依頼し、承諾を得た。 巡回訪問に先立ち、苦情内容を明示することなく、いかにして告発のあった事実の確認を行うか、委員と事務局で慎重に調査の進め方を訂ち合わせた。
調査の当日は、通常の巡回訪問の場合と同じように、まず施設内の視察を丁寧に行い、利用者の表情や職員の動静に変わったことがないかにも注意した。
その後、施設長、支援担当部長、苦情受付担当者を対象に、事前に回答を得ていた「巡回訪問調査票」をもとに、利用者支援の状況や、苦情対応の仕組みと運用状況等について確認した。やりとりの中で施設長から「委員会に報告するような重大な問題は発生していない」との説明があった。これに対して委員が苦情対応に関する経過記録や「サービスの質・権利擁護に関する委員会」の議事録の閲覧を求め、その内容を詳しく確認したところ、申出人から告発のあった「利用者の動画の送信」や「暴力的な支援」に関する記録が複数発見された。
委員がそれについて追求したところ、施設長は「大きな問題ではなく、すでに解決した」と説明したが、記録を見るかぎり適切な対処がなされたとは到底考えられなかった。
上記の調査結果をふまえ、委員会では「巡回訪問調査報告書」を作成し、その中で虐待にあたる重大な権利侵害の事実を指摘した上で、事業者として早急に対策を講じ、その結果を委員会に報告するよう要請した。その後2か月を経て、事業者として法人全体の検討会を設置し、問題行為のあった職員の処分を行うとともに、再発防止策を講じた旨の報告があった。委員会では、事業者からの報告を了とし、その内容を市の虐待防止センターにも報告した上で、今後の継続的な指導監督を依頼した。

対応のポイント

その1 匿名の申し出についても可能なかぎり対応する
本件は巡回訪問という手法が有効に機能した例であるが、そうした取組みでは問題が顕在化しない場合も珍しくない。事案の重大性によっては、虐待防止センターや行政の運営指導所管課との連携を含め、利用者の安全確保を優先した機動的な取組みが求められる。
その2 改善計画や結果報告により、具体的な改善・解決を確認する
苦情や告発の内容が重大な場合や、その後の経過を申出人を通じて確認することが難しい場合には、機関として改善の申入れを行うだけでは不十分であり、改善計画や結果報告を徴することにより、具体的な対応を確認することが必要となる。