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苦情対応の事例 苦情対応

苦情事例1保育園で保育士から繰り返し虐待を受けたと訴えがあった
(苦情調整委員会型)

相談内容

申出者 ---- 母親
サービス種別 ---- 保育所
本人状況 ---- 3歳の男児

保育園で怪我をして帰ってくることが多く、登園を嫌がる本児に対し、両親が保育園で何があったかを問い質したところ、本児から、担当保育士に繰り返し暴行や暴言を受けたとの話があった。これを聞いた両親が保育園に訴え出たものの、まともに相手にしてくれなかった。やむを得ず市の保育課や児童相談所にも相談したが、調査もしないで「あり得ない」と決め付けられた。

対応

母親から電話で相談を受けた事務局は、すでに本児が保育園への登園を中止していることから、緊急対応の必要性は乏しいことを確認した。その上で、申出人の訴えの詳細を記録にまとめるとともに、苦情申出書を申出人に送付し、必要事項を記入の上返送するよう依頼した。数日後、申出人から事務局に苦情申出書が届いた。
その後、直近で開催される苦情調整委員会において、苦情申出書と相談・対応記録を資料として提出し、委員会として苦情対応を行うことを確認するとともに、おおまかな対応方針(申出人の相談にのっている関係機関にもヒアリングを行った上で、申出人調査と事業者調査を行う)と担当委員を決定した。担当委員は、児童の権利擁護分野において実績ある弁護士が指名された。
担当委員と事務局は、申出人の了解を得た上で、以前から申出人が相談していた子ども家庭支援センターのワー力ーを訪問しヒアリングを行った。その結果、申出人は最近下の子(1歳)の看病で疲れきっており、ノイローゼぎみであること。そうした中、本児に対してもきつくあたることが多く、小児科医院でも心配されていること等が判明した。
次に、担当委員と事務局は、委員会事務所において申出人の事情確認調査を実施した。夫とともに調査に応じた申出人は、自分がこれまでいかに保育園を信頼していたかということと、それを裏切られた失望感と怒りを繰り返し訴えた。一方で、保育士からの虐待を証明する客観的な証拠は存在せず、根拠は本児の話だけであることや、問題にいたる経緯として、本児と他の園児間でケン力(噛み付きや引っ掻きなど〉が繰り返されており、それに対する保育士の対応に申出人が不満を感じていたことも判明した。また、申出人からは保育園とのやりとりが記録された連絡ノートの提供を受けた。
次に、担当委員と事務局は、保育園に対する事業者調査を実施した。保育園では申出人から直接苦情を受けた時点で、「信頼できる保育士であるため虐待などあり得ない」と繰り返し申出人に説明するともに、関係する保育士や市保育課と対応を協議したとのことだった。また、担当委員は事実関係を明確にするため保育日誌等の記録を閲覧し、加えて保育士数名を個別にヒアリングした。
上記の各調査の結果、保育士からの虐待の事実は認められないものの、日頃の申出人からの相談に対し、保育園としての対応は必ずしも十分でなかったことや、そのことが原因となって申出人が子どもを問い詰め、事実に反する説明を引き出してしまったことが伺われた。こうした事実認識のもと、委員会では事業者に対して保護者への日常的な育児支援の充実を申し入れるともに、担当委員が申出人と面談し、直接報告を行った。申出人からは、虐待の事実が明らかにならなかったことは残念だが、委員会が申し出を正面から受け止め、考えうるかぎりの丁寧な調査をしてもらえたことに感謝するとの言葉があった。

対応のポイント

その1 予断を排して客観的な事実の確認に努める
福祉サービスに関する苦情相談は、申出人の状況や話の内容から事実ではないだろうと想像されることも少なくない。しかし、苦情対応機関はそれを虚言や妄想と決め付けることなく、できるかぎりの調査を行い、客観的な事実に基づいて判断することが重要である。そうしたプロセス自体が申出人の傷ついた心を癒し、信頼関係を再構築するきっかけになるよう努めるべきである。
その2 事案の状況に応じて緊急対応の必要性を判断する
とりわけ虐待の疑いがあるような事案にあっては、通常の苦情対応の手順では状況の変化に対応できず、深刻な事態を招く恐れも否定できない。そのため、初期相談の時点で問題の緊急性と重大性を見極め、必要な場合には臨時の緊急対応を行ったり、関係機関に通報する等の対応が求められる。機関のルールに事案を当てはめるのではなく、事案の必要性に応じた対応を心がけたい。